第6話 領地で悠々自適ですがなにか?

「ミレーネ、本当に良かったのかい?」


 聴いているだけで昇天しそうな低音イケボ。


「お兄様ったら。元々お兄様は、この婚約に反対されておりましたよね?」


 憂いのこもった眼差しが、とっても色っぽくて、スマホだったらスクショ必須!


 そんな妄想とは裏腹に、清らかな笑顔で私は返答する。


「それはそうだけど……。ああ、確かに、こんなことになるのだったら、あの時もっと強く反対するべきだったよ」


 悔いをにじませ、ますます麗しくなる憂い顔。


 ああっ、眼福!


「お兄様のせいではありませんわ。それに、王家からの申し出ですもの。そうそうお断りできるものではございませんし」


 領地にいた私に王子妃レベルの教育がなされていた時点で、少なくとも大人達には、それ相応の思惑もあっただろうし。


「いや、断ることは出来たと思うよ。ただ、ごねたら『ならば第一王子に』という流れが想像できたし。さすがに伯爵家から将来の王妃は荷が勝ちすぎると、父上も悩んでいたからね。母上と叔母上は『うちのミレーネなら大丈夫』と仰っていたけど。でも、その方が良かったのかもしれないな……」


 待って! 王子妃だけでも気鬱なのに、王太子妃とか、あり得ないから!


 当時はまだ記憶が戻ってなかったけど、王都でずっと暮らすかもしれないって、嘆いていたんだから。


 王子妃よりもさらに行動制限のある王太子妃なんてムリっ!


 お兄様やお父様が変な気を起こさなくてくれてよかったぁ!


「それに、わたくし、第一王子の……ヴィクトール様はあまり存じ上げないのですけれど……」


「まあ、ミレーネと入れ違いに、外国に留学されたからね。小さな頃には何度かお目にかかったけど。ミレーネは覚えていないかもしれないな」


 お兄様と同じ年の第一王子ヴィクトール様は、学問に熱心であまり同年代の子供に関心がなかったらしい。


 同年代のお兄様でさえそうなんだから、さらに6歳年下の私と関わる機会などほとんどなかったのだろう。


 同じ年のフレデリック様のことは覚えているんだから、そこそこ仲も良かったのかもしれない。


 たぶんそれもあって王太子ではなく第二王子の婚約者として打診が来たのかな?


「どうだろうね。将来王を補佐する第二王子だからこそ、立場をわきまえて行動できるミレーネに目を付けたのかもしれないよ。それに、うちは宮廷の派閥争いには中立を保つと目されていたと思うし」


 おや、平和に見えたけど、やっぱり派閥争いとかあるんだ?


 まあ、お父様のことだから、のらりくらりと躱していたのかな?


「まあ、同母兄弟で、ヴィクトール様は圧倒的に優秀だから、うちが外戚になったところでそこまでの勢力争いにはならなかっただろうしね。……まあ、あそこまで愚かだとは思っていなかったけど、ね?」


 最後の一言に、そっと怒りをにじませるお兄様。


 笑顔なのに怒気をはらんだ、その闇顔も素敵ぃ!


「そうだね、王都には戻る必要はない。かといって手持ち無沙汰だろう? 将来は私の補佐をしたいと言っていたけれど、やってみたい仕事はあるかい? それともどこかの研究所に入るかい?」


「王立学園中退ですのに?」


「すでに卒業レベルを超えて教えることはないと報告を受けているよ。暇だからと中等科に入ってすぐ高等科の教科書を取り寄せて、半年足らずで最終学年の分まで予習してたって聞いたよ?」


領地こちらの教師が優秀過ぎるんですわ」


「それもそうだけど、ミレーネの勤勉さが大きいよ」


 コツコツ取り組むのは、社畜時代の影響だろうなあ。


 記憶が戻っていなくても、仕事や課題に取り組んでいないと落ち着かなかったみたい。


 恐るべし、社畜根性。




 


 


 

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