第4話 予定調和ですがなにか?

 そして、シナリオ通り、4年が過ぎて、高等科一年生の冬、イマココ。


「何故、だと? そなたは、ロゼが平民育ちだと嘲笑い、取り巻きを使って陰湿な嫌がらせをしていたそうじゃないか! 教科書を破ったり、花瓶の水を頭から浴びせたり、階段から突き落とそうとしたこともあったと」


 フレデリック様は、形の良い眉をキッとつり上げて、私を糾弾する。


「すべてロゼから聴いた! 間違いないな?」


 いや、それ、ヒロインの自作自演です。


 ロゼは愛称で、本名はロザリー。


 公の場で愛称で呼んでる時点で、わりとアウトなんだけど。


 予定通り春に高等科に編入してきて、トントン拍子に攻略対象と交流を深めて行って。


 傍目にも見苦しいほど、皆とイチャイチャして。


 決着のつく冬までのガマン、と思っていたけど、ホントストレスだったわっ!


 推しイケメン達を平和に愛でていられた中等科時代が懐かしい……。


 フレデリック様も、愛でるだけなら目の栄養だしね。

 

 去年まではマトモな王子様だったんだから。


 それがこの変わりようたるや。


 そもそも本人の証言しかないのに、なんでこんなに自信満々なんだろう?


「そのようなっ! 証拠はございますの?」


 ここは、もっと狼狽えて答えるんだけど。


 でも、そこはちょっと変えさせてもらう。

 

 まあ、そもそも証拠って言っても、どうせ破かれたとかいう教科書とか、水で濡れてビショビショだったとか、そのくらいしかないと思うけど。


「破かれた教科書を見せてもらった! それに、彼女が服を濡らして泣いていた日のことも良く覚えている! 秋とはいえ暖かい日だったから良かったものを!」


 そりゃ、暖かな日を選んで濡れたんでしょうしね。


 いやいや、ここで真相をバラしてはいけない。


 とはいえ、このままヒロインへの嫌がらせを認めるのは、後々私の立場が危うくなる。


 お兄様に表に立ってもらうとはいえ、私の悪行で家名に泥を塗るわけにもいかないし。


「……はぁ。わたくしが何を申し上げても、きっと無駄ですわね。きっと言い訳としか受け取られないでしょうし」


「開き直ったか?!」


「わたくしから申し上げることはごさいません、という意味ですわ」


「ミレーネ?!」


 そばにいたお兄様が慌てたように小さく叫びをあげ、何か言おうとするのを、片手で制して。


「神に誓って、わたくしは悪意を持ってロザリーさんに嫌がらせしたつもりはごさません。けれど、そうさせた、というように誤解を招く態度だったとしたら、それは謝罪いたしますわ。貴族令嬢としてふさわしくないと感じていたことは事実ですし」


「ロゼは平民育ちだが才能を認められて編入してきたんだ。将来の王子妃ならばそこを補ってやるのべきだろう? その婚約も、なかったことにしよう。冷酷なそなたは王子妃には相応しくない!」


 ほお、言ったわね?


 婚約を、なかったことに、しよう、と?

 

 感じていた、と言っただけで、嫌がらせしたとは認めていないのに、フレデリック様は謝罪という言葉にいい気になったのか、決定的な一言を口にした。


「……承知いたしました。婚約者でなくなれば、わたくしが王都にいる意味もございませんわ。速やかに領地に戻らせていただきます」


「そうか。殊勝な心構えだ。最初からそのような態度でロゼに接していて欲しかったものだな」


 うんうんと笑顔で頷くフレデリック様。


 笑いたいのはこっちだわ。


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