第20話 宝の予感

 道を進む。

 どこに光源が存在するのか、何故か松明を必要としない程度の明るさがある。


 上下左右の岩肌にその明かりが反射した様は幻想的ですらあるな。こういう状況でなきゃ風流でも感じて静かに観賞しながら歩きたいくらいだ。そういう点では惜しいと思う。


「どこまでついてるんだろ? なんか結構歩いた気がするんだけど、まだまだって感じじゃん」


「道もいくつか分岐してるせいで、気を付けないと本当に何処を歩いているか迷うな」


「ね。でも香月くんのスーパーイケてる感じのパワーで目印置いてるしぃ。やっぱ一ダンジョンに一香月くんって感じっしょ。もう香月くんしか勝たんみたいな」


「……頼むから翻訳が必要な言語で喋るのは控えてくれ。理解に時間がかかる」


「は? 翻訳? オレってば外国語あんま話せないんだけど……。あ! そんなにグローバルに見えちゃう感じ?! 香月くんってばオレを喜ばせんのマジ得意じゃん!」


「……そうかそうか。じゃあもういいや」


 結局俺の方が合わせなきゃダメなんだろうな。


 相変わらずのお調子棚見の相手をこれ以上に積極的に続けるつもりは無いから、黙る事にする。

 この奇妙な相方はそれでも一人で喋り続けるが。


(思えば、俺が黙ると会話するようには喋らないな。……いや、たまたまだろう)


 それはさておき、現状でも武器を確認する必要がある。

 この場合の武器とは剣とかそういうものだけを差すのでは当然無い。持てる力全ての事だ。


 俺自身、まともに扱える武器がナイフなどの軽量な物くらいだ。いざとなったら大剣や斧や槍は棚見にくれてやる。その方が有意義というものだろう。


(今後重要になる俺の力とは、やはりこれだ)


 その辺で拾った小石を別に色がついた石へと変える。奴らが追ってくることを警戒してルビーに変えるのは危険な為、こういう場所でも目立つ程度に色のみを変更している。

 こんな細かい調整も出来るんだなと我ながら感心する。


 色を変えた石は地面に戻す、こうする事で迷子になるのを防ぐのだ。


(こうなるとやはり俺の力は金属や石を変換する能力と考えていいだろう。ボロボロの剣も修復したのでは無く、変換したと考えるべきだ。それから考えるにこの能力の応用法は……)


「お! なんかまた広いとこに出たよ!」


 棚見の言葉で思考を打ち切る。確かに今までと少し違う場所に来たな。

 広さこそそう変わらないものの天井の高さがかなりある。そして何より目を引くのが、空間の中央の台座にポツンと置かれた箱だ。


「見てよ! やっぱオレってば冴えてるじゃん、この勘がピーンと宝箱のありかを探し当てちゃったぜ。香月くん、これで毎日肉が食えるぜ」


「肉って……そりゃ食べ物は重要だけどな。問題はその中身だろ? 値打ち物かもわからないし何より……」


「香月くーん! この宝箱鍵が掛かってて開きそうになーい!」


「いつの間に……。おいあんまり近づくなよ、罠が仕掛けられてる可能性だってあるんだから」


 さっきまで俺の隣にいた男は、まるで瞬間移動でもしたの如く箱の元へとその身を移していた。

 人が大事な事話してたろうが。


 仕方ないので俺もその箱の元へと。


 そうしてたどり着いて、改めて観察する。

 まずこの台座だが、これは確かに箱を置く為にわざわざ用意されてる感じがするな。やはり何者かがこの炭鉱に空間を作ったという訳だ。何の為か今のところわからないが。


 そしてこの箱。古ぼけているが、それでもまだ丈夫さを保っていそうな印象がある。

 大きさは俺の両手で抱える必要があるくらいか……、結構大きいな。


 そしてその箱には棚見の言ったように何かをはめ込むような穴が開いている。おそらくそれをセットしなければ開かない仕組みだろう。


「いっそ壊す? ああでもそれじゃあ中身もダメになっちゃうか。じゃあこれ事運んで教会の人に頼んで見るとか? こんな珍しそうなもん、興味持ってくれそうじゃん。じゃあ指輪の中に……」


「まあ待て。下手に動かすこと自体がまずいかもしれん。こういう場合、迂闊な行動が死に繋がるもんだ」


「ああそっか。確かにそういう漫画とか見たことあるかも。で、そういう場合は結局キチンと鍵使わないとなんだよね。う~ん……ん? 香月くんさぁ……」


「どうした? 悪いが俺は鍵なんて持って……」


「あの宝石見せて。もしかしてだけどぉ……もしかしてみたいな?」


 何を言っているのか要領を得ないが、言われた通りルビーらしき宝石を取り出す。

 しかしこの石、この空間だと余計に綺麗に見えるな。どこか幻想的と言うか……今はどうでもいい事か。


「で、これがどうした?」


「ちょっと借りるぜ。あ、それと一応オレの後ろに下がってね」


「ん、ああ……」


 言われた通りに石を手渡すと、俺は棚見から微妙な距離を取った。


「そんじゃま……、とりあえずやってみますか!」


 棚見はそう言うと、石を持った腕を大きく上に振りかぶる。そしてそのまま勢いよく――石を箱の穴にはめ込んだのだ。


(何!? いや、そうか! あの穴の大きさと形状から考えればその可能性は十分にあった)


 俺は石をただの特殊な石としか考えていなかったようだ。

 思えば、あの女達がこちらを殺そうとしてまで手に入れようとしていた事を考えればこれ自体が鍵だとも簡単に結びつく。


(こいつ、柔軟じゃないか。それとも陽キャ特有の柔らかさがあるとでも言うのか……)


 陽キャの生態を今まで理解しようともしていなかった俺だ、その可能性も持つべきかもしれん。


 穴にはまった石は、まるで最初からそう作られていたかのように違和感無く固着しているように見える。

 台座の方は変化が無い……こちらは本当にただの台座のようだな。


「ビ~ンゴ! じゃあお楽しみタイムの始まり始まり……だったらいいけど危ないかもだし慎重に」


 さっき俺の言った罠の可能性も考慮してか、慎重に上蓋に手を伸ばしてゆっくりと開き始めた。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……いや、どっちも出るのは勘弁願いたいけれど。

 それでもポジティブにものを考え切れないのが、どうしようもない俺の性だ。


「そ~……」


 時間を掛け、少しずつ警戒をしながら蓋を上へと開いてゆく。

 やがてこれ以上に開けなる程に上蓋が角度を持つ。


 すかさず棚見は距離を取り、俺と共に静寂を選ぶ。


 十秒、二十秒……刻一刻と流れる時間を体感で引き延ばしながら、やがて棚見は口を開いた。


「……そろそろいいんじゃない?」


「そうだな……」


 顔を見合わせた後、忍び足で箱に近づく。


 二人して覗き込んだその先にあった物、それは――。

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