内見フィーバータイム(KAC20242)

歩致

着ぐるみだけにキー(key)ぐるみってね〈深夜テンション〉

東京某所にて、

「これより住宅の内見作戦の概要を伝える!

今回の作戦はあくまで住宅の内見という体で訪れるものだ。よって、各々それにふさわしい服装で臨むように!」



~数時間後~

はあー今日は初めて一人で住宅内見の仕事だよ……不安しか感じない!

俺は明都信也あきつ しんや何の目的もなく大学に入り、何も考えず大学を卒業。サークルで知り合った後輩に勧められて不動産会社に就職して今に至るという平々凡々な人生を送る人間だ。

まぁ新人の俺が任せられる案件だから相手も一般の人だし、いつも通りやればできるはずだ。

ちなみに今日の内見は数グループの団体さんで最近できた新興住宅地の内の一軒が今日の担当だった。予約はあと10分後だしもう一度身形を整えておこう。


ピンポーン


「はーい!今日は住宅内見にご予約頂き誠にありがと、、、」

俺は目の前の光景に固まってしまった。あちらは客だからこっちが悪いのは百も承知なのだがその上で言い訳をさせて欲しい、目の前には3組のカップル?がいた。

まず着物を着こなす明らかに堅気の雰囲気じゃないサングラスの男と、綺麗な着物で俺と同い年くらいに見える美女でものすごく気まずそうな顔をしている。


ここまではいいのだが、残り二組が問題だった。

片方は10人は殺してそうな目つきの細身でスーツを着こなす男となぜかメイド服を着ている筋肉もりもりのサングラス。メイド服は見るからに男なのだが性的自認がどうのこうので最近はうるさいので何とも触れずらい相手だ。あとその筋肉をアピールするような自信満々の目でこっちを見ないでほしい。

もう片方のペアはチェックのシャツにジーンズという服装だけ見ればオタクそのものと言う感じなのだが顔のピアスがえぐい、おまえオタクが後ろ姿みて近寄ってたら顔見た瞬間気絶するぞ?しかもその相方が着ぐるみなのだ。ちなみに版権的に安全な茶色い熊さんの着ぐるみなのだがこのメンツで中身が見えないのがここまで恐ろしいとは……。


「おいアンちゃん!はよう案内してくんねえかな!?」

着物のグラサンに声をかけられてようやく我に帰った。

「はっ!すみません!こちらへどうぞ!!」


これまでの人生で一度も見たことのない光景に宇宙猫になってしまっていた……。いったん忘れて仕事、できるか!?なんだよこの状況明らかにヤのつく自営業の人と変態と狂人に囲まれて仕事できんのか!?

てか着ぐるみ!!死んだ目でこっちを見つめてくるんじゃない!くっやるしかないのか……?


「ほ、本日はどういったご用件で内見に……?」

「あ?内見なんやから家見に来たに決まってるじゃろ。」

「で、ですよねぇー。」

だから怖いよ着物にグラサンは!!

「あ、おじょ……オマエ、ハドンナイエガイインダッタケ??」

(やめろグラサン、お前のカタコト過ぎる演技でお前とそこの美女の関係が露呈してるぞ)

「はぁー……新藤!周りを威圧しないで!あとそこまで大根なんだったらもう喋らないで、こっちが恥ずかしくなる。すみませんうちの新藤が怖がらせちゃって……。」

「い、いえお気になさらず……。」

(いやいやいや!もう確定でヤのつく人とそこのお嬢様じゃん!!)

「そ、そちらのお客様方もどのような家をお求めで?」

とっさにスーツとメイド服に話を振ってしまった。なに答えられても理解できないかもしれない。


「いやー私は付き添いみたいなもので、こっちの妻に聞いてください。すみません。」

スーツは思ったよりも威圧が少ない……まて、妻??筋肉メイドの明らかに男なコイツが妻?

「へ、へぇー(震え)そうなんですねー。お、奥様は何かご要望などはございますか?」


「あちしー?あちし付き添いみたいなものだからーそこの夫に聞いてくれるー?」

やめろ筋肉メイド服、裏声なのがバレバレだぞ。あとお前の夫は横のスーツじゃないのかよ!スーツもスーツでなにかリアクションしろよ!?俺がおかしいんじゃないのかと思ってしまうだろ!ていうかあちしってなんだあちしって。いつの時代の人間だよ。


一応刺青オタクにも話を振らなければ……。

「お、夫さんには何かご要望などはございますでしょうか?」

「あん?チッそんなもんそこのスーツにでも聞けよ。俺に話振るんじゃねえ。」

「は、ハイ。」

一周しちゃったよ。何なの三角関係なの?こいつらバカなんじゃないかと段々思えてきた。このオタク滅茶苦茶怖いんだけど段々見えるもの全部に吠えまくるチワワみたいに見えてきちゃったよ。そもそもなんで設定統一しておかないんだよ?ていうか筋肉メイドの夫どっちなんだよ……。


「なあ陰気オタクお前真面目に答えろよ?お前コスプレのせいで馬鹿になったんじゃねえの?あ、もともとバカだったか。」

「あん!?この陰気スーツがイキってんじゃねえよ!つうか元々はこの筋肉達磨が俺に投げんのが悪いんだろうがよ!?」

「ヤメテーワタシのタメニアラソワナイデ―」

  

喧嘩を始めるスーツとオタク、そして棒読みの裏声で仲裁しようとしてんのか火に油を注いでんのか分からない筋肉メイド、そしてまだこちらを見つめる死んだ目の着ぐるみ。


「お、お三方ともと、と、とり合えず中を全体的に回ってみませんか……?」

「私は結構です。」

「だから話しかけんじゃねえよヨレヨレスーツ!」

「アチシツカレター。カエリタイ―。」

「え、いや、その」

どうしたらいいんだよー!?なんなんだよこいつら!マジでなんのために内見に申し込んだんだよ!?もう帰ってくれ……。あとメイド服はいい加減その裏声やめろ。似合ってないにもほどがある。

「……おい、神内かみうち尾田おだ釈迦郡しゃかごおりお前ら迷惑かけないでっていったよな?」

「いや、お嬢私は無実でしょう?」

「ふん!」

「あ、アチシ……」

あの筋肉達磨の名前が釈迦郡なんてなんかちょっとショックだ……。にしてもあのお嬢様かっこいいな。

「言い訳無用!帰ってから沙汰は渡すからそれまで外で待ってろ!」


「お嬢、さすがにずっと外っていうのは……。」

「なら新藤も外でとけ。」

「そ、そんな!俺にはお嬢を見守る責任がですね……。」

「ほら!さっさとバカ三人組連れて外行け!」

 

す、すごいあの混沌とした空間を一瞬で片づけてしまった……。いや、正気になれ俺。話を聞くに原因の一端はこのお嬢様にあるのだからマッチポンプではないのかこれは?

「あのバカどもがすみませんでした……。私が一人で内見に行くのが嫌だって言ったばっかりに。」

「い、いえいえ個性的な方々ですね……。」

「気を使わなくてもいいんすよ?素直にバカばっかりだっていっても。」

「いやいやそんなことないですって。」

言えるか!?このおバカー!


「……。」

「……。」

沈黙が重すぎる


「あの、実はですね。今日内見に来たのは家を身に来たんじゃないんです!」

「へ?じゃ、じゃあ何を見に来たんですか?」

「そ、それは……。」

何故か顔を赤らめるお嬢。てかもう俺もお嬢で定着しちゃったよ。


「わ、わたし前からあなたのことが気になってて。それで今度の内見の担当があなただって知って思わず……。」

まじですか。

「まじですか……。」

思わず考えていたことがそのまま出てしまった。でもこんな美女に惚れられるのならむしろ嬉しい。

「こんな俺で良ければよろしくお願いします!」

「!……はい、絶対に後悔させません!」

「普通逆じゃないかなぁ。」



こうして俺とこのお嬢、桔梗咲良ききょう さくらはお付き合いすることになったのだった。































「ん?そういえばどうして俺が今日内見の担当になったって知ってたんですか?公開はされないはずなんですが。」

「そ、そこの目の死んだ着ぐるみの方が突然フリップ芸でコミュニケーションをとってきて、それでなんとか読み取ったんです。」

「フリップ芸?ってそこの着ぐるみ咲良さんの関係者じゃないんですか!?」

「え?」

「え?」

気づくと目の死んだ熊のぬいぐるみが床に転がっていた。外で待機していたバカ三人組+アルファも家から出てくる着ぐるみは見てないという。


後日、あの時の内見を担当した家は心霊スポット兼恋愛スポットというよくわからない状態のまま人々で賑わっているらしい。

なぜ、らしいって?実際体験した身としてはめっちゃ怖かったから遠くに引っ越したからだよ!理由の一つに咲良さんの実家が怖かったってのもあるけど、やっぱあの着ぐるみはちょっと怖いって。


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内見フィーバータイム(KAC20242) 歩致 @azidaka-ha

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