毒沼のある住宅
pyてょん
毒沼のある住宅
「いかがでしたでしょうか」
「日当たりもいいし、収納も広くて角部屋だしいい感じですね」
不動産屋に連れられ、物件の内見を終えた後のことだった。
その物件は窓から日差しは差し込んでいるものの、どこか薄暗い雰囲気が部屋に立ち込めていた。
「それは良かったです。では契約の手続きの方させていただいてもよろしいでしょうか」
「いや〜もうちょっと悩んでもいいですか」
「そうですか……ちなみに何で迷っているかお聞きしても良いですか?」
「やっぱり、この毒沼ですかね」
「やっぱり、この毒沼ですよね〜」
そういう不動産屋の頭上には、赤い数字が断続的に表示されている。
10,10,10,10......
多分この数字はHPに対するダメージの数値だろう。毒沼だし。現実でHPが何に相当するかはわからないが。
「いや、どう考えたら毒沼のある物件を勧めようとなるんですか」
「あまり細かい条件とか指定されてなかったのでいけるかな、と思ってました」
「流石に無理ですね」
「あ〜もしかして5ダメージくらいまでなら大丈夫とかありました?さっきから10ダメージ入ってますよね」
「ダメージの問題じゃないです。自分の部屋でスリップダメージ受けることを想定してないです」
「それなら金属製ものを身につけるとダメージを無効化出来ますよ。毒属性なので鋼属性には無効です」
「属性相性とかあるんですね。でも金属製のものなんてもってないしなー」
「それが今なら鎖かたびらをプレゼント出来ます!」
「マジですか。鎖かたびらがあれば安心ですね。でもそれじゃあじゃあここに決めます!とはならないです」
「う〜ん。じゃあちょっと設定いじってみますね」
不動産屋は身につけていたカバンから見たことのない器具を取り出し、毒沼に突っ込んだ。
器具の持ち手部分をガチャガチャと調整するとどこからかシステム音のような高い音が聞こえた。
頭上を見ると先程から断続的に現れていた数字に加え、更に数行の文字列が表示されていた。
「080-xxxx-xxxx……ってこれ電話番号じゃないですか」
「管理者への連絡先が登録されているんですよね。ちょっと設定をゆるく出来ないか聞いてみます」
不動産屋が電話をすると、いつのまにか部屋にもう一人増えていた。
「この方が管理者の先川さんです」
紹介された先川さんは女性だった。職業は悪魔をやっているらしい。補足するならかなり際どい服装をしていた。
「毒沼の状態は彼女が駐在して調整してくれるらしいです。どうですか、物件の方契約されますか」
それを聞いた僕の頭上にはある文字列が浮かんでいた。
Yes,Yes,Yes,Yes......
毒沼のある住宅 pyてょん @nononomura
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