声優とファンの百合付き合い

@annkokura

第1話 日常

「おっはよ〜!」

 教室の扉を開け、元気溌剌な声で教室内のクラスメイトに挨拶する女の子。

 七海白春凪(なみしろはるな)、高校二年生。アホ毛のあるキャロットオレンジ色の髪に大きくてクリクリとした目。身長は百六十センチの細身の体型だが、胸は大きく実っている。瑞々しい乳白色の柔肌はモチッとしている。性格は明るく、好奇心旺盛で人懐っこさがある。学業は全教科平均点以下だが、その愛されキャラでクラスメイトからも先生からも親しまれている。そんな春凪にはクラスメイトに内緒にしていることがある。それは、声優として活動しているということだ。春凪は一年前、声優という職業に興味を持ち、持ち前の好奇心旺盛ですぐさま声優について検索した。そして、たまたま一般オーディションがあり、それに応募すると、演じるキャラとの相性が良かったのか見事合格した。春凪が声優として活動していることを知っているのは、身内と教師、そしてバイト先の店長だけだ。ちなみに、デビューキャラ以外で主要キャラを演じたことはなく、今はモブキャラばかりである。

 春凪は登校すると必ずするルーティーンみたいなものがある。それは、

「おはよ、神白さん!」

 春凪は一人読書に耽っている女子生徒に挨拶をした。

 神白蓮(かみしろれん)。腰までストレートに下ろした艶やかな黒髪に整った顔立ち。身長は百七十センチと女子高生にしては高め。手足は長く、まるでモデルのような体型。汚れ一つない純白のドレスのような白い肌には潤いがあり、美容にも気を遣っているのが一目でわかる。性格は春凪とは違い、自分にも他人にも厳しい。何事も妥協を許さないため、行事があるたびにクラスメイトと対立している。学業優秀、運動神経抜群、完璧な容姿。まさに、才色兼備。それらが全て揃っている挙句、性格もあってクラスで一人孤立している。しかし、彼女本人にそれを気にした様子はない。そんな蓮に唯一話しかけるのが春凪だ。

 挨拶をされた蓮は、またかと言わんばかりにあからさまに溜め息を吐くと、読んでいた本から春凪へと視線を移しキッと睨む。その瞳からは、読書の邪魔、どっか行ってという意思表示があった。

「あははは……」

 春凪はその視線から伝わってきたメッセージに苦笑いを浮かべ、自席へと戻った。

 当初は、蓮も口で拒絶をしていたが、一ヶ月が経った今、もはや口すら開かずに視線だけで春凪を追い返していた。もちろん、周囲の生徒は、蓮に対して嫌なやつといった雰囲気を出していた。

「今日もダメだったか……」

 肩を落としながら残念そうに呟く春凪。春凪の視線は再び蓮の背中を見ていた。そんな春凪に前の席に座っているクラスメイト、綾が話しかける。

「まだ懲りないの?」

「うん。だって、わたしはみんなと仲良くしたいから」

「春凪のそういうところは素敵だと思うけど、それをウザイって思う人もいるんだよ? みんながみんな、仲良くしたいとは思わないんだよ? 一人がいいって言う人もこの世の中にいるの」

「それはわかってるよ。でも、何だろう? 神白さんとは気が合うように感じるんだ」

「馬鹿と天才が?」

「ちょっと⁉︎ 酷くないかな⁉︎」

 綾の容赦のない辛辣な言葉に、春凪は左胸を抑え大袈裟に傷ついたとアピールする。

「こう見えて、わたし以外と傷ついてるんだよ?」

「えっ、そうなの?」

「わたしを何だと思ってるの⁉︎」

「能天気で楽観的なお馬鹿さん」

「さらに酷い⁉︎ ……はぁ、もういいよ……。」

「でも、なんでみんな神白さんが嫌いなの?」

「そんなの言わなくてもわかるでしょ? あの人を見下すような物言い。そして、容姿」

「それ、ただの妬みだよね?」

「わかってるわよ! でも、同姓として負けた気しかしないじゃん! だから、認めたくないの! でも、春凪はいいよね。これで、勝てるんだから、さ」

 そう言って、綾は春凪の胸を揉む。

「ちょっ、ちょっと⁉︎」

「相変わらず大きいし柔らかいわねえ。何カップなのよ?」

「そんなの……、う、ん……、言えるわけないじゃん! あっ……、ふっ……」 

 変な声が出そうになった春凪は手で口元を抑える。そのまま力が抜けるような感覚に襲われ思うがままにされてしまう。

「ふぅ……、堪能した……」

 綾は何かをやり遂げたように一息つき額を拭う。そんな綾を春凪は睨みつけ文句を言う。

「いくら、女の子同士だからといって、人のプライベートゾーンに勝手に触れるのは良くないよ!」

「すまん、すまん! 興奮してつい」

 本当に申し訳なく思っているのかわからない態度で綾は春凪謝る。春凪は、その態度からは、悪く思っているとはとても思えなかった。そうやってふざけているうちにホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り響き、友達と談笑していたクラスメイトも各々の席に着いていく。そして、先生が教室に入ってきてホームルームが始まるのだった。

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