第26話 種族会議

 これからどうして行くか。それを話さなくてはならないのだが……


「……睨み合うのとりあえず辞めない?」


 俺はサンタナとマルタに落ち着いて欲しいとお願いした。


 さっきまで争ってたもの同士だから気持ちは分からなくは無いが、睨んで小競り合って争うなんてのを繰り返してたらキリがない。どちらかの種族が全滅するまでやることになる。


「まだやり足りないんだったら俺が相手するよ。次はサンタナ相手でもね」


「……わかりました」


 俺の一言で少し場が落ち着いた。


 でも本当に暴れ出したらどうしようかと思った。俺のこと強いと思ってるぽいから今のハッタリでどうにかなったけど。ヨカメンティスしか無い俺じゃ相手が目をつぶってても八つ裂きにされる自信がある。


 黄泉はとりあえず会話が出来そうな雰囲気が出来たことにに少し安堵し、ナードベアとナックルベア、そして(たぶんだけど)ヒューマンの俺による三種属会議を行うことにした。






「……うん、つまりみんなの意見をまとめるとこうなるのか」


 黄泉はサンタナ、マルタ、そして自分の意見を全てまとめてみる。


 ナックルベアは魔族を嫌うヒューマンをどうにかしたい。でもヒューマンに立ち向かえるほどの力は無い。だから仕方なくヒューマンの寵愛を受けている、ドランの加護を持つナードベアに嫌がらせのつもりで村を襲ったと。でもナードベアという種族自体を直接恨んでるわけではない。感情のままに動いてしまったことは反省しているらしい。


 ナードベアはナックルベアとの争いを望んではいない。平和にのんびりと暮らしたいだけなのだ。でも争いになるなら容赦するつもりも無い。襲って来ないと約束できるので有れば仲良くする意思はあるが、問題はヒューマンがそれをどう思うかというところ。


 俺はせっかく異世界に来たのだからいろんな種族の可愛い女の子たちと仲良くして、幸せな生活を送りたい。だからとりあえず今はミーナと早くお話をさせて欲しい。ちゃっちゃと和平を成立させて、出来れば耳とかモフモフしたい。


「こんなカンジか」


「あのー、ワシの意見が入って無い……」


「和平は成立できそうだけど問題はヒューマンか」


「……無視しないでくださいよ」


 黄泉は村長のラルドを無視して話を進めることにした。


 正直ラルドの話はお爺ちゃんが老後はどうしようかと言ってるだけのこと。なんでコイツ村長やれてんの?と思うぐらい今の会議には関係の無い話しかして来ない。サンタナが村長した方がいいだろうと思えるぐらいラルドの話は無視できるものだったのだ。


「ヒューマンって実際どんな奴らなの?」


 俺はサンタナとマルタの意見を聞いてみる。

 寵愛を受けるナードベアと迫害を受けるナックルベアの両者の意見は違う物と思っていたが、意外にも両種族ともヒューマンに対する見解はほぼ一致していた。


 ドランアースに住むヒューマン。見た目は俺とほとんど同じ種族で、髪や目の色、肌の色などは多少違うという。

 俺の知る地球とドランアースの人の違いは魔法が使えるというところ。

 ヒューマンは身体的には獣人や魔族よりも劣っているが、いろんな種類の魔法が使える分、戦うということに関しては他種族よりヒューマンが抜きん出ているらしい。


 だがヒューマン同士の争いになると、数が物を言うということで、ナードベア達のような加護持ちは招集され、その働きに見合う報酬を受けるのだという。それに獣人はヒューマンと見た目があまり変わらないということもあり、特別変な目で見られることもないのである。


 逆にナックルベアのような魔族に対しては酷い仕打ち。見た目が自分達とかけ離れている上に加護も無い魔族をヒューマンは自分達とは違う、モンスターだと認識しているのだ。


 黄泉は2人の話を聞き、ヒューマンに対して少し納得する部分もあった。たしかに自分達とかけ離れた種族というのは分かり合えるかどうかなど難しいと思うだろう。

 正直今も面と向かって熊と話してるのは不思議でしょうがなかった。話してみれば意外と意思疎通ができると気づくが、こんな話し合いの場を設けるのもドランアースのヒューマンには考えられないのだろう。


 そして不思議と言えばもう1つ。ドランアースのヒューマンの魔法についてだ。


「えっと、加護ってドランの加護だけじゃないの?」


 黄泉はサンタナ達に加護について詳しく聞く。


「はい。私たちはドランの加護しかありませんが、加護は種族によって異なります。ヒューマンの中には複数の加護持ちもいるということで火と水、雷と土のように違う属性を同時に使える者も居ると聞いてます」


「俺たちには1つもくれないのにな。どうなってやがるんだこの世界の神とやらは!」


 サンタナの説明を聞き、マルタは少し苛立ちを見せる。


 でも確かに不思議な話だ。加護を複数持ってる者もいれば、魔族には加護は与えてない。

 ヴァルドランがそんな贔屓ひいきなことをするだろうか?


 それに加護、つまり魔法というのは神に選ばれた者が使えるものとされているのだが、俺の知る限り、この世界はヴァルドランが作った世界であるはず。


 ドランの加護があるという話は俺も納得していた。属性も火でヴァルドランの赤い見た目と一致していたし。


 でも違う属性の魔法ってことは違う神の加護がこの世界には存在している。神様が複数いる話はローグから聞いていたが……。

 ヴァルドランの世界であるドランアースに複数の神が介入しているということなのだろうか?


 中途半端に神様達と関わりを持っているためか、黄泉にとってサンタナ達の話はかなり困惑するものになったのだ。

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