第24話 飲食物は時に兵器と化す

 作戦のかなめであったヨカメンティスがナックルベアの無力化に大成功。ナックルベア達のもがき苦しむ様は、目を閉じている黄泉でも手に取るように分かったのだ。


「だいたい10分以上は経ったかな……うん、霧も無いね。みんなー、目開けていいよー」


 黄泉は薄目で村の外を見る。ヨカメンティスの霧が晴れたことを確認し、ナードベア達に目を開けて良いと伝える。


「………こ、これはなんと!?」


 黄泉の指示で目を開けることにしたナックルベア達。目を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 目の前にはさっきまで熾烈しれつな争いを自分達と繰り広げていたナックルベア達が全員地に伏しているのだった。顔を手で覆い、涙を流しながら地べたを転がるナックルベアを見て、黄泉の魔法がとんでもない物であるとナードベア達は錯覚する。


 そして黄泉も自分の使ったヨカメンティスの威力が思っていた以上の結果をもたらしていたことに気づき、驚きを隠せなかった。


 ………こんな危険な遊びが流行ってたのか。

 俺の世界で出来た遊びって、もしかして相当ヤバいものなんじゃ。

 戦争がどんなもんかて漫画でしか読んだことないけどこれは………


 黄泉はヨカメンティスが戦争でも役に立つ兵器になり得るものなのではと思ってしまうのだった。




 ヨカメンティス。ダサい名前と思うかもしれないが、これは俺が考えて出来た言葉では無い。元いた世界、地球の至る所で流行ったメンティスコーラという遊びの一種なのである。


 メンティスコーラとは炭酸飲料であるコーラの中に砂糖の詰まったソフトキャンディーのメンティスを入れることで、コーラが勢いよく噴き出すという物である。

 これはここ最近ネット動画配信者達がこぞってやっている世間を賑わしている遊びの1つなのだ。

 そしてこれが流行り出すと動画配信者の中には他とは違う、画期的なメンティスコーラを生み出したいと試行錯誤し始めたのだ。


 メンティスコーラの原理はいたってシンプル。メンティスの表面に存在する気孔が炭酸の泡を大量に作り、コーラの内部で一気に圧力が高まることで噴き出してしまうというものだ。


 動画配信者達はコーラをサイダーに変えてみたり、メンティスをラムネに変えてみたりと、色んな方法で勢いよくジュースが噴き出す動画を作ることに必死になっていた。


 そこで生み出されたのが、今俺が使った『ヨカメンティス』なのである。


 ヨカメンティスは炭酸飲料よかコーラとメンティスを混ぜて出来た物。とてもマイナーな博多のお土産品であるよかコーラ。福岡で有名な動画配信者がたまたまよかコーラを見つけ、それをメンティスコーラに試してみたというのがヨカメンティスを生み出す結果になったのだ。


 動画は生放送で配信されており、俺もその配信者が好きでたまたまその生放送を見たのだった。

 最初は色んな炭酸、色んな砂糖菓子を使って、面白おかしくトークを繰り広げながらメンティスコーラを試していた動画配信者。


 しかしよかコーラを試す時間が訪れると、配信者の悲惨な結末を流すことになる10分間が生放送されたのだ。

 よかコーラにメンティスを大量投入すると天井を突き破るかの如くペットボトルからコーラが噴き出すのだ。実験に成功したー、すごいぞこれー!っと喜び騒ぐ配信者。しかし画面の向こう側が黒い霧に覆われて始まると、配信者の様子が急変したのだった。


「あれ、なんか目が……あれ、痛い……痛い、痛い………痛い痛い痛い痛い痛いわぁぁぁぁぁー、がぁぁぁぁぁぁぁーーーー」


 さっきまで楽しくトークをしていた配信者の見る影はなく、黒い霧の中で、顔を押さえてもがき苦む姿が、10分もの間流れ続けたのだ。


 やがて配信者は目の痛みに耐えられず失神。騒ぎを聞きつけた動画配信仲間がそれを救出して動画が終わる、なんとも恐ろしい生配信になってしまったのだ。


 ヨカメンティスをはっきりと覚えていた俺は、家にあった漫画を読む時用に食べるメンティスを大量買いしていたことと、よかコーラを訳の分からない能力で生み出すことに成功したことで、ナックルベアをあの時の動画配信者の様にできると思ってこの作戦を立てたのだった。


「…………あれ?、予想よりヤバそう」


 10分経った今でもナックルベア達は痛みを訴え続けていた。黄泉もこれは話にならないと思いナードベア達に命令を出す。


「一時休戦!みんな、ナックルベアを川に連れてって!」


「「「りょ、了解です!」」」


 状況を全て把握できた訳では無いナードベア達だが、今の弱りきったナックルベアなら脅威にはならないと思い、黄泉の言う通りにナックルベア達を川へ連れて行ってやるのだった。

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