第7話 殺人事件として捜査

 その時、刃先から血液がぽたりと床に落ちた。


「ぎゃあっ!」


 急いでキッチンへと移動し、シンクに包丁を放り投げると、これでもかというほど水をかけて洗い流した。

 そして、それを古くなったタオルで包み、その上からガムテープで何重にも巻いた。


 人形はコンビニの袋に入れた後、こちらもガムテープで巻いて、外から見えないように細工した。


 包丁は「燃えないゴミ」の袋に入れ、悠汰ゆうたの部屋の模型と人形は「燃えるゴミ」の袋に詰め込んだ。

 朱莉あかりの最高傑作ではあったけれど、これ以上、手元に置いておきたくなかったのだ。


 ◇ ◇ ◇


 数時間後、悠汰の訃報が日本中を駆け巡った。

 自宅で亡くなったらしい。警察は殺人事件として捜査を進めているそうだ。

 朱莉はその報道を見聞きしながら、かぶりを振った。


「私じゃない。私のせいじゃない。私は何もしていない。私はずっと家にいた」


 翌朝、朱莉は誰よりも先にゴミ袋を抱え、回収場所に置いた。数か月を費やしたミニチュア模型は、その日のうちにゴミ収集車の中へと押し込まれたのだった。

 さらに翌朝、包丁を処分した。


 これで、証拠はない――。

 朱莉はほっと胸を撫でおろし、いつものように勤務先へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る