ミニチュア模型に彼は住んでいる

佐藤 楓

第1話 趣味はミニチュア模型

 朱莉あかりは幼い頃から手先が器用だった。

 大学在学時、ドールハウスに魅了され、見よう見まねで模型作りを始めた。大学卒業後、一人暮らしのワンルームに工具を揃え、本格的にミニチュア作りを開始した。


 仕事を終え帰宅すると、ひたすら模型を作った。カフェ、パン屋、ケーキ屋、花屋、本屋。魔法の家を作ったこともある。

 完成した模型はショーケースにしまい、部屋の収納に積み重ねていった。

 そして、休日にそれを取り出して、中を覗くのが朱莉の楽しみとなっていた。


 ◇ ◇ ◇


 夏祭り。遠くで打ち上げられた花火の音が朱莉の家にも届いた。だが、肝心の花火が見えない。


「ライブ中継しているかも」


 とネットで動画サイトを開いてみた。

 すると、おすすめにドールハウスの作り方の動画がずらりと表示された。朱莉の趣味趣向をしっかりと学習している。


 朱莉は花火のことも忘れて、ついつい未視聴の動画を再生したのだった。

 すると、広告が流れた。

 いつもなら適当に見てスキップするのだが、この時の朱莉はどうしてもそうすることができなかった。



 広告に流れる男性の甘く優しい歌声に心奪われてしまったのだ――。



 朱莉はすぐにその声の主を調べた。

 彼の名は、悠汰ゆうた。ソロで活動しているアーティストだ。

 デビューして間もないというが、それを感じさせぬほどの完成度だった。

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