第2話

 ネットゲームを始めて右も左もわからない初心者だった俺にたまたま声を掛けてくれたのがアイリスだった。アイリスはそっちの世界では俺より少し先輩で、このゲームのいろはを教えてくれて、時間が合えば一緒にボスの討伐をしたり素材の採取をしたりしていた。


 最初はテキストチャットで交流していたのだけど、そのうちボイスチャットをしてみようということになった。


 初めてアイリスの声を聞いた時は綺麗で可愛らしい声だなと思ったけれど、使っているキャラクターとの差が激しすぎて思わず噴き出しそうになった。アニメだったら絶対にミスキャスティングだと炎上していることだろう。


 そして、今日、初めて彼女に会う。


 本当に同い年の華のJKなのだろうか。それとも、実は少しサバを読んでいる年上のお姉さんだろうか。もしかしたら還暦のおじいちゃんということもあるかもしれない。


 まあ、どのパターンでもいいじゃないか。アイリスはアイリスだし。いつもと同じように話しながらコラボカフェを楽しんで激レアアイテムもゲットできれば問題なし。


 待ち合わせ場所のファッションビルの入口近くまで来たところで、黒のキャップを深めに被り直す。眉毛の上あたりの傷は見えるかもしれないけど、それぐらいなら許容の範囲だろう。


 スマホで時間を確認すると待ち合わせの三十分前。


 コラボカフェの予約入店の時間があるから遅刻しないようにと思って来たが、早すぎたようだ。


 待ち合わせ場所には、俺を除くと小さな女の子が一人だけいる。背丈からすると小学生といったところだろう。さらさらした長い銀髪で桜色のワンピースには胸の部分にリボンが付いている。


 こんな繁華街に小学生が一人でいるなんて迷子だろうか。でも、迷子にしては堂々としている。


 いや、小学生の迷子だと迷子であることを恥ずかしいと思って虚勢を張っているかもしれない。


 そうだとすれば、声を掛けてすぐ近くの交番まで連れて行った方がいいだろうが、万が一、俺を不審者だと思って騒がれたりしたら事案発生で警察の厄介になってしまうかもしれない。しかも、キャップを取れば悪役のような傷が額にある。これは怪しい奴だと思われて署まで連行ということになっては一大事だ。


「……の、あの」


 顎に手を当てながら最悪のシナリオについて考えを巡らせていたせいで声を掛けられていることに気付かなかった。


 視線を落とすと、目の前に迷子の小学生(仮)が立っている。さっきは少し離れたところからこの子の様子を見ていたので気付かなかったけど幼い顔立ちだがかなり美少女だ。


 愛くるしい瞳は少し碧が入っていて睫毛まつげも長い。肌はきめが細かくつきたてのお餅みたいだ。俺が今までの人生の中で会ったことのある人の中でも群を抜いて可愛い。


「ああ、交番だよね。それなら少し駅の方に行ったところの交差点にあるよ。よかったら一緒に行こうか」


 俺からではなく彼女から声を掛けてきたのだから俺を不審者と思っていないと考えて返事をした。


「んぐっ、ど、どうして、私が交番に?」

「へっ!?」


 最初に声を掛けられた時は声が小さかったからわからなかった。でも、今の〝んぐっ〟といい。くりっとした声といい。どれもゲームをしている時にいつもボイスチャットから聞こえるアイリスのものだった。


「……タツでいいんだよね。黒いキャップ被って来るって言っていたし」

「うん。……えっと、それじゃあ君がアイリス?」


 こちらの問い掛けに小さく頷くアイリス。


 今、自分の目の前にいるアイリスの姿は想像していたもののどれとも違っていた。自称、華のJKだって言っていたのにどう見てもJKじゃなくてJSだ。


 これから二人でコラボカフェに二人で行って大丈夫だろうか。普通に友達同士と見られるだろうか。


「しかし、いきなり交番に一緒に行こうかなんて、いきなりホテルに誘うよりも斬新なナンパだね。タツはいつもそんな風に声を掛けているの?」

「いやいや、ナンパとかしないし。普通に小学生が迷子になっているかと思っただけだから」

「小学生……、タツは私のこのことを小学生の迷子だと思ったわけ。どう見てももうすぐ華のJKって感じでしょ」

 ふんすっと胸を張るアイリスだが、まあ、その……、何というか、身長だけでなく、そのほかの部分についても発達はこれからのようだ。


 ●


 結果から話すとアイリスとのオフ会はとても楽しかった。カフェのメニューはファンの心をくすぐようなものだったし、カフェ内でのイベントも楽しめた。


 俺が室内でもキャップを被っていることについてはファッションの一部だと思ってくれたのか特に聞かれることはなかったし、額の傷を見られるということもなかった。


 予定通りオフ会を楽しんで激レアアイテムもゲットできたので満足というほかないところだ。


 あの日以降も春休み中に何度かアイリスと一緒にゲームをしたけれど、前よりも親密さが増して以前よりもゲームを楽しめるようになった気がする。


 そして、気が付けばあっという間にいつもより長めの春休みは終わって、高校の入学式の日がやって来た。


 今日は入学式だけで授業はないからとたかを括って深夜までゲームをしていたせいでさっきからあくびが止まらない。


 あくびは何とかかみ殺しているが、来賓の話が長いとどうにも居眠りをしそうになる。話の途中で居眠りをしているくらいならまだ目立たないけど、「新入生、起立」と号令がかけられた時に一人だけ座っていてはさすがにまずい。


 飛んでいきそうな意識を繋ぎ止めながら早く入学式が終わることを願っていると、

「新入生代表挨拶」

 司会の先生がそう言うと急に会場がざわつきだした。もちろん、声を出して話し始めたわけじゃない。ただ、空気がさっきまでとは急に変わったの感じた。


 どうしたのだろうと思って目を擦りながら登壇した代表生徒を見て理由がすぐにわかった。


 ステージ上に登壇した女の子はどう見ても高校一年生というには幼い女の子――先日会ったばかりで俺が小学生に見間違えた女の子であるアイリスが立っていた。


…………To be continued?

― ― ― ― ― ―


 皆様、お久しぶりです。浮葉です。今年最初の短編作品となります。二話しかありませんが読者の皆様のブックマーク、★★★評価、コメント等たくさんの応援で連載化に昇格するかもしれないです。ぜひぜひ応援のほどよろしくお願いします。

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