第44話 ゲロりやがれ! ください!

「こんにちは神田先輩! 今朝ぶりですね!!」


 放課後になり、またゲーセンにでも行くかと考えていた俺の前に上野が現れた。朝の約束通り俺の話を聞きにきたらしい。


「お前部活いいのか……? 生き甲斐なのに」

「僕の生き甲斐は部活じゃなくてオカルトです」


 キッパリと言い切った上野は上級生のクラスに遠慮なく入ってきて当然のように俺の前の席に座った。まだ教室にはまばらに人がいるのに気にせず入ってきて気にせず座る根性に驚く。普通もっと萎縮するだろ。

 通学に使っているらしいリュックを置いて一息ついた上野は、呆然としていた俺に人差し指をつきつけた。


「それにこの状況は神田先輩風に言うなら『うるせぇテメェをゲロらせる方が先だ』ってやつです! さあさっさと存分にゲロりやがれ! ください!」

 

「好き放題訳わかんねえ事言いやがって……!」


 おかしな敬語と共に詰め寄ってくる上野に負けて、俺は荷物を下ろして自分の席に座り直した。


「あ、おやつ置いておきますね〜」


 上野は緊張感のカケラもない声でリュックから駄菓子を山ほどと、自販機で買ってきたであろう飲み物を取り出す。

 万年腹減り状態の俺は、見たこともない駄菓子の山に少しテンションが上がってしまったが決して顔には出さないように努めた。なんとなく先輩としてカッコがつかないからだ。

 上野がにこにこ笑いながら「これどーぞ!」と差し出してきた紙パックの飲み物と駄菓子を、礼を言ってから受け取る。変に準備が良いんだよなコイツ……。

 他に誰もいなくなった教室で、自分の紙パックにストローを刺したあとに他の駄菓子を開封して準備を整えている上野を見て俺はとうとう諦めがついた。


(はぐらかしてもしょうがねえ……。黙っててもそのうち解る事だもんな)


 俺は俺について、最近懐いてくる後輩に洗いざらいぶちまけてみる事にした。

 他人に自分の口から全部話すのは初めてだから、なんだか少し緊張するが、これであの家に帰る時間を遅らせることもできるしまあ良いだろう。


 もしこれを話した事で上野がドン引きして疎遠になってしまっても、まあ、構わない。元に戻るだけだから。

 俺は自分に言い聞かせながら、口を開いた。

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