第7話 これからもずっとずっと一緒だよ

「ねぇ、なんでそんなことするの? けーくんはまゆの彼氏でしょ? なんで他の女とホテルなんていったの? このまえ夜に電話したら出てくれなかったし、バイトばっかりでぜんぜん一緒にいられない。デートだってどこいくかまゆばっかり決めてるし、このまえお昼ごはんの予約とれなかっただってけーくんがやるっていったからまかせたのに予約しなかったから怒ったのになんで逆ギレするの? けーくんいつもそうじゃん。LINEの交換だってまゆがゆわなかったら交換してくれなかったぢゃん。どーしてまゆに冷たいの? まゆのことすきだってゆってくれたぢゃん!」


「あー」


 ヒステリックに喚く女を前にして、俺は心底疲れた声が出てしまった。前原真由は確かに俺の彼女ではあったが、正直もう相手をするのも面倒なのでとっとと切りたい。ぱっと見清楚系でおとなしいので声をかけたが、ここまでアレな女だとは想像してなかった。

 大体全体的にいつの話してんだよ。電話に出なかったのは1週間前でバイトめちゃくちゃ入れてたのは去年のGWの話だろ。昼飯の予約は一ヶ月前の話じゃねぇか。どの時点でもこいつは派手に癇癪を起こした後泣いて縋ってきたし、俺も一応悪いと思ったから謝って終わった話だったはずだ。LINEの交換にいたってはまだ付き合ってない時の話だ。大学の授業で同じグループになった、初対面の時の話だ。マジで疲れる。もう終わった話を蒸し返すのは良いとして(良くねぇけど)せめて時系列に沿って話せよ。なんで「私が嫌だった順」みてぇな選び方してんだよ。普通にややこしいわ。


「ねぇ、けーくん約束してよ。もう浮気しないって約束してよ。まゆのことだいすきだってゆって。愛してるってゆってよ」

「あー、うん、うん」


 何度も何度もカッターナイフで傷つけてガタガタになった腕が俺の服に縋り付いてくる。リスカ痕は初めてヤる時に気づいた。それまでは化粧とか服とかで上手く隠されてたようで、正直騙された感が強い。

 そもそも浮気がどうのこうの喚いてるけど、こいつのバ先ガールズバーだしな。これは半年前に知った。バイトの話変にはぐらかすなーと思ってたらデリヘル一歩手前みてぇなガールズバーで働いててやっぱ騙された感すげぇ。それ言ったらまた騒がれるから言わねぇけど。

 なんて喚くか当ててやろうか?

『愛があるのとないとじゃ違うでしょ!?』だ。

 あとは自分は仕事だからとかヤッてないからとか。正直もうどうでもいいわ。どうせどんな状況だって自分は絶対被害者だと思ってやがるだろうしな。


「ねぇ、ゆびきりしようよ。背面ゆびきり。ぜったい約束やぶれないように」


 もう面倒くせぇから一旦言う通りにしとこう。変にサブカル入ってっから変なおまじないとかやたらやりたがるんだよなコイツ。


「夜十二時にね、鏡の前でゆびきりするの。鏡に背中むけてうしろでゆびきりして、その時鏡を見ちゃいけないの。そうしたらぜったい約束やぶれなくなるんだよ」


 は? じゃあわざわざ夜十二時にまたこいつに会わなきゃなんねぇの? はぁーめんど。

 ただこの状態のコイツを拒否したらまたヤベェくらいヒスするしな。とりあえず今日は付き合っといて、早めに切るか。

 どうやったら切れっかなー。普通にフッてもまたヒスって暴れるだろうし、大学でリスカとか自殺未遂騒ぎ起こしたら面倒だし。

 どうにかしてコイツから俺のことフッてくんねぇかな。マジでめんどくせぇ。地雷だわ地雷。


「これからもずっとずっと一緒だよ」


 地雷女が不気味に笑う。気持ち悪ぃな。腕を組まれて振り払いたいのを我慢しながら、俺はこの粘着女から逃げる方法を考えていた。

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