第5話 今日は見えるのか

「んー、そうかぁ、わかるのかぁ……」


 神田に話を聞き終わった上野が、学校の廊下を歩いている。高校一年生に相応しい、どこかあどけなさの残る顔立ちで、自分の左肩にそっと手を置いた。

 窓ガラスに視線を向ける。なにもないはずの左肩に、自分のものではない手が映っていた。

 

 自分の手に重なるように、背後から肩に手を置くような形で、死人のような手が見える。

 肌は青白いを通り越して青黒く、爪はひび割れてやはり黒い。骨張ったそれは実体がないので、手が触れているはずなのに、触っている感覚がなかった。


「今日は見えるのか……」



 少し困ったという程度の表情。

 次の瞬間その憂いは消え失せ、彼は窓ガラスから視線をそらして再び歩き出したのだった。











――――――――――


・次回予告・



  あれは、僕が高校に入ってすぐの出来事でした――


 深夜、上野恭介は部屋から外を見ていた。今日、アレはどこまで来るんだろう。


 ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた

 

 怪異に目を付けられ生気を失った上野に声を掛けたのは霊感のある先輩、二年の神田雅弘だった。神田は初対面の上野を放っておくことができず、怪異から逃れる為に協力することになる。


「このままじゃお前死ぬぞ。わかってんだろ」


   ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた


 深夜に聞こえ出す異音、左肩に乗った死人の手。新入生・上野恭介は紛れもなく、呪われていた。


「おこがましいことはわかってます……! でも、僕……まだ、生きていたくて……! もう少しだけ、死にたくない……!」


「ねぇ、ゆびきりしようよ。背面ゆびきり。ぜったい約束やぶれないように」



 《きょうすけくん わたしが いっしょに ころして あげようか?》








 次回

『背面ゆびきり』

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