内見
鶏殺臓物地獄
内見
「それに、陽の光が差し込む間取りになっているんです」
備え付けのカーテンを開けると、部屋いっぱいに光が満ちた。
僕は部屋の内見を案内する、新人不動産営業マンだ。
物件案内をするのは初めてではなくて、これで17回目くらい。
部屋の見取り図を見るのにも慣れてきた頃合いだ。
「ね、いい部屋でしょう」
なんて、お客様に媚びへつらってみるが、返事が返ってこない。
「はは、案内を続けましょうか」
お客様をお連れして、今度はまた収納に向かう。
「収納も広くて、服なんかも入れやすそうですよね」
クローゼットを開いて見せる。
「あと、死体とか」
お客様は首を横に振っている。
どうやらこのジョークは気に入らなかったようだ。
お客様をお連れして、風呂場のドアを開ける。
「この部屋は風呂とトイレが別で衛生的にも嬉しいんですよ」
清潔で、手入れの行き届いたバスルームだ。
浴槽には、水が張られている。
「いかがでしょうか?」
またもや返事が返ってこない。
思いっきり、お客様の頭を浴槽に沈めた。
水から頭を引き上げ、髪を引っ張り上げて目を真っ直ぐ見つめる。
「お返事を待っているのですがね」
無理な話だ。だって、お客様は手も足も車椅子に縛られて、ガムテープで口を塞がれているのだから。
仕方がないので、ガムテープを剥がす。
「いかがですか、この部屋は」
「知らない所に連れてきて、わけのわからないこと言ってなんなのよアンタ!」
もう一度頭を浴槽に沈めた。
「この部屋は、いかがですかと聞いているんです」
水からまた頭を引き上げる。
「意味わかんない!バーで口説いてきたもんだから着いてきたってのに何させられてんのよわた」
息を荒げて、女は罵倒してくるものだから、包丁で喉を掻っ捌いてしまった。
喉から血を吹き出してジタバタしてから、動かなくなった。
この女はもう部屋を見ていないのだから、客ではない。
「ああ、また契約が取れなかった」
こうして、僕の引っ越し毎の内見ごっこは続くのだった。
内見 鶏殺臓物地獄 @1zanziro
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