第24話 そして
― 時は経ち 夏合宿 当日 -
私たちは、朝8時に学校に集合して、送迎のバスの到着を待っていた。
夏とはいえ早朝の空気はどことなくひんやりして、空気も澄んでいるような気がした。空には小鳥たちのさえずりが響き、日中より幾分おとなしくなっているセミたちがそれでも一生懸命鳴っていた。私は、隣に立っている吉田君に
「合宿楽しみだね。」
と何気もなしに言うと、吉田君は、頭を振りながら
「新聞配達の所長を説得するのには苦労したよ。まぁ、最後は納得してくれたからいいけど…」
と、小声で苦労話の片鱗が漏れてきた。私は、気遣いが足りないことに気づいて、申し訳ないように
「ごめん…」
と言って、二人夏の広い青空を眺めながら待っていると、急にバタンと、何かが倒れる音がして、何事かと視線を向けると、園田さんが、何かにつまづいたのか、膝を落としていた。私は、駆け寄って、擦り傷とかがないかと様子を見ながら
「大丈夫?怪我がない?立てる?」
と聞いて、園田さんの顔を見ると顔色が真っ青であからさまに具合が悪そうだった。それでも、園田さんは心配をかけたくない想いなのか、どう見ても無理な笑顔を見せて
「大丈夫よ、ごめん。私、ほんとは朝弱いのよ。」
と言ったが、朝が弱いというレベルでなくて、あまりにも具合が悪そうなので、私は、園田さんの瞳を見つめながら真剣に
「具合が悪いなら病院へ行かないと、これから人里離れた山の中で過ごすから、急に具合が悪くなっても対応できないよ。」
そんな、私を落ち着かせようとしてか、園田さんの小さな手は私の頭を撫でながら
「大丈夫よ、いつものことだから。」
と、にっこり笑ったが、笑顔にいくらか影があったような気がしたけど、園田さんが大丈夫と言うのだから、多分大丈夫で、私の気のせいなのだろうと思いなおした。そして、穏やかな笑顔を園田さんに向けて
「本当に、何かあったら遠慮なく言ってね。」
と言って、園田さんに向けて手を差し出して立たせた。その時、少し手が震えているような気がしたけど、思い違いだろうと思って、気に留めなかった。そして、丁度よく、バスが到着して、各々バスに乗り込んで、私たちの町からさらに山奥のペンションへと出発した。話によると、学校から車で一時間半くらいかかるらしくバス内では、各々雑談なり、MDやCDプレイヤーで音楽を聴いたり、本を読んだりと自由に過ごしていた。私は、だまって外の風景を見ながら街の風景から、田畑や、そして杉林が広がる山道の風景を飽きもせず眺めていた。そんな何もない、住宅や商店が少ない地域で暮らしている人は一体どうやって日々の生活を成り立たせているんだろうと、素朴な疑問が起きて、自分なりに考えたけど結局答えは出ず。ペンションへと着いた。
私たちは、荷物を持ってバスから降りようと立って出口へと向かおうとすると
ドン!
と後方で何かが倒れる音がして、一同一斉に後方を振り返ってみると、園田さんはうつぶせになって倒れていた。異常事態に、部長は急いで園田さんへと向かうと
「玲ちゃん、大丈夫、意識ある?」
と体をゆすりながら、声をかけていたが一向に反応がないので、バスの中は一瞬にして緊張が走った。部長が園田さんに声をかけている間、副部長は、ペンションへと走って、田口先輩を呼びに行った。しばらくすると、男性並みに髪が短いやせ型の背の高いエプロン姿の女性が現れて、意識のない、園田さんをゆすったり、声をかけたりして、それでも一向に改善が見れらないので、慎重に抱えると
「とりあえず、彼女を部屋に運んでくるわ。みんな、とりあえず荷物を持って、ペンションに入っていきなさい。大丈夫、介抱は私がするわ、見たところ脈もあるし命に危険がないと思うわ。」
と、言って、バスを降りて、急いでペンションへと入っていった。その女性は、顔は穏やかな顔をしているつもりでいるかもしれないけど、あからさまに緊張と不安の色が見えて、穏やかな口調の裏にも動揺か否が応でも読み取れていた。
救急事態の後に残された私たちは、合宿早々から、何か暗雲がたちこめるような、気まずい空気の中指示されたように、荷物を持って、ペンションの自分の部屋に入った。私の頭の中は不安と動揺でいてもたっていられずに、園田さんの様子を見に行こうと、園田さんの部屋に向かうと扉の前でさっきの女性が園田さんを抱えたまま、出くわして、彼女は申し訳なさそうに
「君、ごめんなさいね、今、彼女、会える状況ではないではないわ。本当にすまないけど、これから彼女を急いで麓の診療所へ連れて行かなきゃならないの。あなたは、これからは、彩の指示を受けて行動して頂戴。」
と、走って、車へと向かっていった。私は、ただ、何もできずに眺めることしかできなかった。
― 結局 合宿は中止となり -
― そして -
― 園田さんはこの日から自分との闘いが始まったのだった ー
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