破滅予定の王国貴族に転生した俺、帝国に亡命する
手毬めあ
第1話
突然のことだった。
俺は前世の記憶を思い出した。
前世の俺はしがない社会人をしていた。
ブラックもブラックな企業で働いていて、帰るのは毎日終電近く。
そんな日々を送っていたせいか、出社しているとき今まで感じたことがないほどに心臓が痛んだ。地面に倒れたことまでは覚えているが、続きの記憶はない。エナドリを何本も常用していたので恐らく心臓麻痺か何かだろう。
次に目覚めるとしたら天国だろうと思っていた。
しかしそんな考えに反して、俺はゲーム世界の貴族に生まれ変わった。
名前はロベリア・グリーズレット。
俺が生まれ変わった男は、ゲーム内で最も嫌われている悪役貴族だった。
「よりにもよってロベリアかあ……」
鏡に映る金髪美男子を見て、俺は頭を抱えた。
異世界転生って神から能力を貰って悠々自適に過ごせるんじゃないのか。
ああ、神様。主人公とは言わないから、せめてモブにしてください……!
前世でやり込んだ大好きなゲームに転生したのに、悪役貴族であるロベリアではこの世界を楽しむことすら難しいだろう。
ロベリアは基本的に破滅する運命にあるキャラクターだ。
主人公に断罪されたり、王国の内乱の首謀者になって処刑されたり等々。
ゲーム内では主人公を異常なほど嫌っていた。
理由は明かされていない。とにかく嫌悪していて、虐めだの差別だのを繰り返していた。そういった積み重ねが原因で、主人公から断罪されてロベリアは死ぬ。
……いや。
中身が違うのだから、主人公にちょっかいをかけなければいいだけでは?
それは正解だ。彼に嫌われないようにすればいい話……なのだが、ロベリアにはご丁寧に複数の破滅ルートが用意されている。
主人公に嫌われないよう立ち回るだけじゃ破滅を回避することはできないのだ。
俺は前世を思い出して、何とも言えない気分になった。
ゲームをプレイしているときは、制作者のサービス精神に涙を流したものだ。
嫌いなキャラが何度も破滅する姿を見るのはスカッとした覚えがある。
……しかし、張本人なってしまった今では……って感じだ。
随分と経ってから販売されたDLCにて、ロベリアの父親が全ての元凶だったという救済設定が追加されていたが、現状にはあまり役に立ちそうもない。
「とにかくだ。ロベリアの破滅は避けないと」
特に大きな破滅エンドは、思い当たるもので二つだ。
一つは王国の内乱首謀者エンド。
王国の有り様に不満を持った貴族たちがロベリアを筆頭に一斉に挙兵する。
クーデターを起こし、瞬く間に王国を占領。
そんな状況に猛った主人公が、持ち前のパワーで全てを解決するというものだ。
こちらもDLCで父親にそそのかされるロベリアが確認できるのだが、彼自身も結構ノリノリだったので情状酌量の余地はない。
二つ目は帝国の侵略戦争エンド。
これは文字通り、帝国からの侵略戦争に巻き込まれてロベリアが普通に死ぬ。
今までの伏線とかなんだったの?って勢いで、死ぬ。覚えている限りだと、テキストのみで「ロベリア・グリーズレット死亡」とかだった気がする。
これの何が怖いかって、原因が不明なのだ。
何を避けて何をしなければ、このエンドを回避できるのかが全く把握できない。
だから、なるべく帝国の侵略戦争エンドは避けたいところ。
……ここだけに登場する人気キャラクターもいるんだけどな。
まあ、仕方ない。キャラクターに会うために侵略戦争で殺されてちゃ本末転倒だ。
「……ん?」
そう自分を納得させようとして、俺は気付いた。
「いや待てよ、仕方ないわけじゃないよな」
この世界はゲームの世界であって、現実だ。
今のロベリアは自由に動けるし何処へでも行ける。
ならこれって……帝国に亡命すれば丸く収まるんじゃないか?
……うん。そうだ。別に王国に残ってわざわざ破滅する必要もない。
加えて殺されないためには、実力を付ける必要がある。そういった点においても、帝国へ行くのは全然アリだろう。
よし。
ひとまずの目標は決まった。
そうと決まれば、帝国への亡命を準備しよう。
流石に帝国に行くために強くならないと不安が残るのからギリギリまで鍛えないとな。残り時間は少ないから効率的にいこう。
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