素敵な家を探して

青樹空良

素敵な家を探して

「やはり物件は実際に色々と見てみた方がいいですからね。ご案内します」

「……ありがとうございます」


 内気で陰気な私は誰かと一緒にいることさえ苦手だが、今日ばかりは仕方ない。

 確かに住むところは自分の目で見た方がいい。住み始めてから合わなかったら困る。


「こちら、どうぞ。築年数は経っていますが結構キレイなんですよ」

「本当、ですね」


 最初に案内されたのは何の変哲もないアパートだ。

 言われたとおり、かなり古そうな感じではあるが、がんばって手入れされている様子だ。が、もう少し寂れている感じが、私は好きだ。


「どうですか?」


 私はうーんと悩んでから言った。


「次のところ、いいですか?」


 ここで即決したら後悔しそうだ。なにしろ、まだ一件目だ。他にも見てみたい。


「もちろんです」


 にこにこと笑顔で言われて、ほっとする。




 ◇ ◇ ◇




 次に案内されたところは、じめじめとしたさっきよりも暗い建物だった。

 昔ながらの日本家屋だ。


「こちら一軒家ですが、とてもおすすめです」

「……わぁ」


 思わず私は声を上げる。

 本当に古い建物で、中に入って上を見上げると梁の向こうには昼間だというのに光の差し込まない暗がりがある。

 なかなか雰囲気がいい。

 こういう建物は好きだ。

 即決しようか迷っていると、廊下の向こうからぎしぎしと音を立てておばあさんが歩いてきた。

 おばあさんは下ばかり見ていていこちらを見ない。


「住人の方です」


 言われて私は頭を下げる。

 けれど、おばあさんは私たちを無視して行ってしまった。

 足取りはなんだかふらふらしている。

 すれ違いざま、


「なんだかこの辺、急に寒いねぇ」


 おばあさんが顔をしかめながら独り言のように言った。


「いいところですね。気に入りました」


 私が呟いたときだった。


「おばぁちゃーん! 来たよー!」


 玄関の方から子どもの声が聞こえてきた。このおばあさんの孫だろうか。

 元気で明るそうな声だ。

 こういう子どもは苦手だ。


「いらっしゃーい!」


 さっきまで元気が無さそうだったおばあさんが、パッと顔を明るくして答える。

 今度は私の方が顔をしかめる。

 そんな私を見てか、慌てたように隣から声が掛かる。


「もう一軒行ってみませんか? 一推しの物件があるんですよ」




 ◇ ◇ ◇

 



 今度着いたところはかなり新しそうなマンションだった。

 高層階で廊下にいる時点でピカピカに輝いていてなんだか落ち着かない。

 今まで案内されたところと違いすぎて、というか私の希望しているところとは随分違う気がする。

 こんなところに住める気がしない。


「ここ、ですか?」

「はい。この部屋なんですけどね」


 私たちはマンションの一室の前に立った。


「少し前にこの部屋で自殺があったんですよ」

「ああ、そうなんですか」


 そういうことなら合点がいった。


「入ってみます?」

「もちろんです」


 私は頷く。

 そして、


「うっ!」


 部屋の中に入った途端、思わず声を上げた。

 思わず成仏しそうになる。

 なにしろ、


「うぇーい!」

「おめーら、ちゃんと飲んでるかー!」

「あははははは!」

「おーい、肉足りねぇぞ! 誰か買ってこいよ!」


 部屋の中はお祭りみたいな騒ぎだった。


「な、なんですか、これは!?」


 私もそれにつられてか、いつもより大きな声を出してしまう。


「俗に言うパリピってやつでしょうかね……」


 私を案内してくれていた幽霊は隣で苦笑いしている。


「ねぇねぇ、ここって自殺あったんじゃないの?」

「あー、そうだけどよ。おかげでこんないい部屋が安く借りられてんのよ。自殺様々ってやつ?」

「そうなんだぁ。ま、気にしなきゃいいだけだもんねっ」


 そう言って、パリピな人間たちは豪快に笑っている。


「おかしいですね。少し前までは、いい感じにおどろおどろしくて住みやすい部屋だったのですが。この人たちの陽の気が強すぎて浄化されてしまったのでしょうか……」

「冗談じゃないですよ! そんなところに住めるわけないじゃないですか!」


 こんな部屋にいたらこっちが成仏させられてしまう。

 私はただ平穏に、陰気で素敵な部屋に取り憑いたり、人を呪ったりして暮らしたいだけなのに……。

 幽霊の物件探しは楽じゃない。

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素敵な家を探して 青樹空良 @aoki-akira

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