小学生が漫画家Xの罪を暴く
坂本 光陽
夏休みの自由研究
僕は大学時代、漫画研究会に所属し、同人誌活動を行っていた。漫画とアニメが大好きで、いわゆるオタクだった。オタクというのは趣味ではなく、生き様だと思う。黒歴史とは思わないのだが、周囲と大きなギャップを感じることがあった。
例えば、小学生の時におこなった自由研究である。僕は自信満々で研究結果を発表したのだが、周囲の反応は期待外れだった。この一件は悔しくて恥ずかしかったので、黒歴史だったといえるだろう。
僕は夏休みの宿題の中で、自由研究が最も苦手だった。どんな題材がいいのか、何から取り組めばいいのか、全然わからないからだ。何も思いつけないまま、夏休みは終りに近づいてくる。このままでは自由研究を最終日に仕上げるような最悪の事態になってしまう。
そこで、近所のお兄ちゃんの知恵を借りることにした。お兄ちゃんは僕にとって、信頼のおける存在だった。大学生だけど勉強よりも漫画とアニメを愛し、面白い作品をいっぱい知っている。だから暇さえあれば、お兄ちゃんのところに遊びに行っていた。僕がオタクになったのは、お兄ちゃんの影響が大きい。
お兄ちゃんの部屋に入ると、大きな本棚が壁沿いに並んでいて、漫画雑誌とコミックス、ビデオテープでいっぱいだった。漫画『巨人の星』を初めて読んだのも、アニメ『あしたのジョー』を初めて観たのも、お兄ちゃんの部屋である。
「もうすぐ夏休みが終わるのに、自由研究は手つかずなんだ」と、僕は切り出した。「お願いだから相談にのってよ。お兄ちゃんだったら、どんな自由研究をする?」
「自由研究をするのは俺じゃない」ぴしゃりと言って、お兄ちゃんは笑った。「大事なのはおまえさんが楽しめるかどうか、夢中になれるかどうかだ。考えてみろ。おまえが今、もっとも興味があるのは何なんだ?」
「えーっ、何だろう。わかんないよ」
「簡単にあきらめるな。例えば最近、腹が立ったことは?」
「夏休みの宿題が多すぎること。漢字を毎日一ページも書くなんて、何の意味があるのか全然わかんない」
「だったら、小学生の夏休みの宿題について、全国各地の傾向を調べてみるか? 手間暇がかかる上に、大して面白くもないと思うがな」
「そうだね。他人の宿題に興味はないよ。そうか、興味があるものに取り組めばいいんだ」
「話を聞いていないのか? 俺は最初からそう言っている。おまえさんが楽しめるもの、夢中になれるものは何だ?」
僕が楽しめて夢中になれるもの。それは漫画とアニメだ。漫画かアニメで自由研究をおこなうとして、漫画かアニメで腹が立つこと。それは何だろう。
その時、僕は閃いた。もし、漫画の中だったら、頭上で電球が光っていたはずだ。
「兄ちゃんが前に教えてくれたパクリ漫画だ。あれは本当にマジ腹が立ったよ」
仮に、その漫画家をX、パクリ漫画を『Z』と呼ぶことにする。
Xは駆け出しのころ、大手出版社で野球漫画『Z』を描き、ヒットさせた。兄ちゃんはリアルタイムで『Z』を読んでおり、月刊誌に連載中のそれを読んでは、毎月、腹が立てていたらしい。
なぜなら、Xの『Z』が水島新司の野球漫画のパクリだったからだ。
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