09 魔窟
俺は今、オルトガという街に向かっていた。
あの入れなかった小さな村からさらに北上した街である。さすがにあの村と比べるのもおかしな話だがネクサスよりは小さな街だ。食料調達というのも目的ではあったがもう一つの目的としてここにある魔窟を目指して歩いていた。
ここの魔窟はそれなりに魔物が沸くようだが、腐った死体と言われるゾンビや動く骨のスケルトンといった、アンデット系の魔物が多く魔石は落とすものの、それなりに強い魔物なので労力ほど稼げないらしい。
そのため冒険者には不人気で現在は溢れ出ないように派遣された国の兵が定期的に討伐している魔窟となっている。もちろんこの情報もミーヤによるものである。そのミーヤは現在、この街に先行して食料調達などを行っている。
街の門付近にたどり着いた時にはミーヤも嬉しそうに合流して話を聞くと食料もしっかりとパクってきていたようだ。あの不味いポーションも何本か入手したという。
この世界の一般的な飲み物らしいアッポやモッモ、そしてオレンといういわゆるオレンジのようなジュースも大漁にあるというので早速ポーションとオレンのジュースを出してもらって飲み干した。
組み合わせを間違えた……
オレンはポーションには合わない。
俺は胃に不快感を覚えつつも少し傷が癒えていくのを感じている。あの猿により痛めてしまった右手は当然まだ治っていはいないが、幾分体が楽になってくるのを感じる。
そして街に入る前にミーヤ以外の眷属たちに近くの林に待機を命じ、街のはずれにあるという魔窟の入り口を管理する小屋へとやってた。ミーヤは肩に乗りフードの後ろに隠れている。
「ここ、入っても良いかい?」
「なんだお前?ここは稼げんぞ?知らんのか?」
その場に居合わせた休憩中であろう兵士に話しかける。当然の様に怪訝そうな表情をしていた。
「いや、金目的ではないんだ。力試しがしたくてな。本当は金も少しこころもとないんだがね。どうだろ?あんたもこの後で討伐に出るのだろう?その分を俺がやるから何か武器になる物を貸してくれないか?丸腰なんだ」
「おっ、じゃあ俺の代わりに働いてくれるってことか?だが金はやらんぞ?武器ぐらいなら予備もあるから持って行っても良いが……」
兵士は少し乗り気になっているようだ。
「もちろん金は要らない。ただ魔石はこっちで貰っても?」
「ああ、そのぐらいなら大丈夫だ。あと剣もそのままくれてやるよ。俺からのお礼だ。だが本当にいいのか?4時間程度は狩っておかないと上から言われちまうからな。それに中々強い魔物が出るぞ?」
俺は少し笑って「大丈夫」と言ってうなづいておいた。
思いがけず剣までもらえることになった。
今はそれで十分だ。
そして俺はその兵士と一緒に休憩をしながら出番を待っていた。その間にどっから来た?だの仕事はなんだ?なんて話しかけてきたが、冒険者として力試しをしたくて転々としていると言ってごまかした。
そして俺の名前はコーガと名乗っておいた。その兵士はバロンと言うらしい。その後、一時間もしない内に魔窟から一人の兵士が出てきたのでどうやら交代の時間がきたようだ。
「じゃあ後はよろしく頼むぞ」
俺にそう言うと出てきた兵士の元へいくバロン。
そしてその兵士と一緒に帰っていった。帰りがけには出てきた方の兵士が「いいのか?」と言っていたが「大丈夫だ。もう話は付けてある。じゃあよろしくなー!」とこちらに手を上げてきた。
返答を待っていたようなのでこちらも軽く手を上げ「じゃあまた」と返すと納得したようで二人仲良く帰っていった。
少し緊張しながら魔窟に入りホッとため息をついた。
俺はミーヤに先行させている間に採取しておいた青い花を岩を使ってすりつぶし、上手くいけば……という思い付きではあったのだが、その花の汁を髪に擦り付けることで紺色程度には綺麗に染まり、手配書にある黒髪ではなくなった。
眷属からもきれいに染まっていると好評のようだ。
忖度しているのかもしれないが……
瞳の色はどうしようもないがこれなら街にだって入れるだろう。
兵士に言えばなんとかなるだろうというアドバイスもミーヤによるものであった。本当に賢い相棒である。髪色変更によりどうやら無事誤魔化すことにも成功したようだ。少なくともバロンが怪しんでいた様子はなかった。
実はここ2日ほど、あの林のエリアを徘徊していたが魔物をほとんど見ることはなかった。そもそもこの辺りで魔物はあまり数が多くないと言う。行動範囲の広い魔狼もそのことを言っていた。
2日かけて遭遇したのは角兎が3体、魔狼が1体であった。これで角兎は7体、魔狼が3体、リーダーの変更はなかったようだ。そんな感じでなかなかレベルも上がらず困っていたための解決策であった。
もちろん森に入ればまだ他の魔物もいるだろうがそれほど上がっていない能力値を考えれば危険が多いためその案は捨てた。それに街の魔窟はそれなりに早いペースで新しい魔物が沸くというから修行に最適に思えた。
ただ、そもそもがダンジョンの魔力により生み出された魔物のため、眷属にはできないだろうとも教えてくれた。そう言ったやり取りもあって俺は今ここに入ることができている。
早速中を探索するとそれなりに多くのスケルトンが徘徊していた。すぐ近くに3体ほどのスケルトンが見える。魔窟での初戦闘は彼らになりそうだ。ゾンビの方は今のところ確認できていない。
とりあえず貰った剣を痛めていない左手で持ってみる。利き手ではないので少しぎこちなく思えるが構わずに振り回してみる。高校の授業で剣道なんかは数回やった程度だが多少は様になっているかもと思った。
剣が軽く感じるのはそれなりに上がっている能力値の影響だろう。
「ニャー(素晴らしいです!さすが魔王様!)」
ミーヤのヨイショも聞こえてきたが恥ずかしいので止めてほしい。
早速近寄ってきた3体のスケルトンに切りかかる。力任せに叩きつけると2体はそのまま切り伏せることができ、バラバラと崩れた後に魔石がポロリと落ちた。それをミーヤが素早く拾い胸袋に収納していた。
残る一体にも同じように切りつけるが、すでに身構えていた様で手に持っている朽ちかけて見える剣で受け止めていた。なんで折れないか不思議だが、うっすらと剣が光っているように見えたので魔力か何かが籠っているのかもしれない。
試しに俺も剣に魔力を……と思って試してみたが何も起きなかった。
いずれできるようになりたいな。
その後、力任せに叩きつけ何とか最後の1体を倒し切ることができた。そしてレベルが一つだけ上がった。幸先が良いように思えた。そのまま広い魔窟内をうろつくとやはりスケルトンばかりだった。まあ良い訓練になるだろう。
2時間程度だろうか?いったいどれぐらいのスケルトンを倒したか分からないが10回ほどレベルが上がった。レベルが上がるたびに次のレベルアップまで時間がかかってしまう。
特にスキルなどは増えていなかった。魔王というぐらいなのだから派手な攻撃魔法ぐらい覚えてほしいものだ。
――――――
真司 ジョブ:魔王
力55 硬75 速85 魔55
パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』
――――――
今日は最初の階だけ討伐しておけば充分とバロンには聞いていたがまだ時間がある。そして丁度良いことに階段を見つけてしまったので降りてみる。少しだけワクワクした気分ではある。
降りるとそこはゾンビだらけだった。
見た目がグロくて切りかかるのに躊躇するレベルではあったがそんなことも言っていられない。かなり手になじんできた左手の剣でそのゾンビを気合と共に切り捨てた。
見た目は腐った肉なのに中々固く簡単には剣が入っていかないので何度も切りつけることも多かった。スケルトンよりも効率が悪いのかもしれないなと感じる。それにこれでは剣が駄目になってしまいそうだとも思った。
だが5体ぐらい倒した時にレベルが上がった。これならスケルトンより少し効率が良いなと考えを改める。そしてなるべく剣を素早く動かし切ることを意識してみると傷は多少浅くなるが切り込む回数は少し増えた程度であった。
効率がさらに上がった気がした。
多少疲れるのが難点だがこの調子でやってみよう。
ついでとばかりに剣に魔力を籠める意識も併せてやってみた。まったくできる気はしないが反復しておくのはいいだろうとダメ元の精神で試すことにした。
もしかしたらレベルアップの際に何かスキルを覚えるかもしれないと思ったからだ。能力値の上昇がレベルアップの間に行った行動によると感じる部分も少なくはなかった。
そしてさらに2時間程度、俺はゾンビを倒し続けた。これでこの階に入ってから3つレベルが上がった。最後のレベルアップには一時間程度かかったのでやはりレベルが上がりにくくなっている。
RPGあるあるだなと感じでいた。もっと死にかけるような強敵と戦えば一気に上がるだろうか?そんな事を考えながらも時間的にも十分狩っただろうと魔窟を出る。
帰りがけにそれなりにスケルトンを倒したがレベルが上がることは無かった。やはり強い魔物と戦い続けなくては強くなれないらしい。ここで上がらなくなったら王都の魔窟に潜ることも考えなくてはならない。
そう感じながらステータスを再度確認した。
――――――
真司 ジョブ:魔王
力60 硬80 速85 魔60
パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』
――――――
魔窟を出るとその入り口ではすでに一人の兵士が待機していた。
バロンから助っ人の話は聞いていたようだが、遅いから死んだと思ったと言われて苦笑いした。約束の4時間より少し長く狩っていたこと、そして2階まで行って狩りまくったことを伝えるとお礼だと言ってもう一本同じ剣を貰った。
貰った剣もいつ壊れるか分からないから正直助かる。今は腰に差しておいて後でミーヤに収納してもらおう。
その兵士の話では普段は最初の階でだらだらと向かってくるスケルトンのみ倒しているそうだ。月に1回程度、何人かでゾンビを狩りつくしに行くらしい。
俺がかなり真面目に狩っていたことを知ると、まだ少し時間に余裕があると言うので剣の手入れについても聞く時間を取ってくれた。この世界では手入れ用の魔法の布があるというので1枚貰った。
2、3日に一回程度軽く拭けば良いと俺の使っていた剣で試して見せてくれた。何回か使ったら艶が出なくなるから捨てろとも言っていた。
さすが異世界。便利すぎる。
地球だったらなんかポンポンして油なんかを塗ってふき取ってとかよく分からないが手間がかかってそうなのを時代劇で見た記憶がある。その後、魔窟を出る前にミーヤから受け取っていた魔石をその兵士に渡すと銀貨三枚を貰った。
3000円程度ではあるがギルドに行ったら何があるか分からないので、換金を変わってくれるのは正直助かった。
その兵に別れを告げると林の開けた場所まで戻ってきたのだが、すぐに待機していた眷属たちも集まってきてまとわりついてくるので、少しだけ疲れた心が癒された。
働いた後はやっぱり肉だ!と夕食には肉炒めのようなものを出してもらいお腹を満たしながら、暫くここでレベルを上げるのも良いかと考えていた。レベルが頭打ちになってからまた何か考えよう。
ちなみに右手の方はほぼ完治しているようである。ポーションすげーと改めて感じた。そう思いながら今日一日の疲れを取るよう寝る準備を始めた。
眠る際にミーヤから「ニャー(お金ならそれなりにパクッてるので必要なら出しますよ?)」と言われ、銅貨と銀貨の山が出てきたのには少しだけがっかりしたが、まああるにこしたことは無いなと思うことにした。
その日は疲れもあって目を閉じるとすぐに眠ることができた。
また明日から頑張ろう。そう思いながら……
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