夢のAIホーム
空本 青大
AIの巣
『いつも婚活AIマッチングアプリ
* * *
「お~ここかぁ」
「へぇ、いいじゃんいいじゃん♪」
男女が見上げるそこには、真四角の形をした窓のない一面真っ白の住宅。
壁の真ん中に、ステンレスのドアのようなものが取り付けられていた。
「ねぇこれどうやって入るの?」
「なんか音声に反応するらしい。今回は俺の名前が登録されてて、言えば開くんだってよ」
「すっご!はやくやってみてよ!」
「そんじゃゴホン……予約した○○だけど?」
男が自分の名前を告げると、ドアは横にスーっと移動し、ドアが開かれた。
「すげー!テンション上がるわー」
「わーい!入ろ入ろ♪」
女に引っ張っられ、男は二人で家の中へと踏み込んだ。
玄関に入ると、無垢材のフローリングと漆喰の壁が目に飛び込んできた。
「わ~、中はナチュラル系なんだねぇ。癒される~」
「おー、外と中ギャップあるな」
二人がキラキラした目で玄関を眺めていると、
「いらっしゃいませ○○様」
流暢な機械音声がどこからともなく聞こえてきた。
「うお⁉誰だよ!」
「失礼しました。私この家のサポートAIでございます。今日はお二人の内見のお手伝いをさせていただきます」
驚く男に、バリトンボイスの男声が返答した。
「これが噂に聞くAI?すごすぎなんですけど!」
「なぁなぁおまえってなんでもしてくれんの?」
「私に搭載されている機能の範囲内であれば対応させていただきます」
「そっかぁそれじゃ~……」
男が顎に手を当て、思案顔からパァと笑顔を見せる。
「なんか面白いこと言えよ!」
「……できかねます」
「できねぇのかよ!高性能なAIならできると思ったのにな~。え~」
「あはは!可哀そうだって!困ってんじゃん~」
「まあいいや、とりあえず中見せてくれよ」
「かしこまりました。それではリビングへご案内します、右のドアへどうぞ」
「よっしゃ!いくぜー」
「おー!」
二人とも靴を脱ぎ捨て、ドタドタと床を裸足で踏み歩いた。
「スリッパをご用意しております。どうぞお使いください」
「いいよ別に」
「そうそう」
男はドアを勢いよく開け、女とリビングへとなだれ込んだ。
「おーなんか欧風な家具で統一されてんじゃん!しゃれてんなぁおい」
「わぁ!いいじゃん!ソファにドーン!」
女は勢いよくソファへ座り、男も続いてダイブするように腰を下ろした。
「ソファが痛みますので、申し訳ないのですが静かにお願いします」
「いや大丈夫っしょ。それより窓ないけど、どういうこと?」
「……はい、窓は目の前にございます。壁に見えますがガラスに特殊な調光フィルムを施し、自在に透明・不透明にすることができます。それではご覧ください」
言葉が終わると、二人の目の前の壁がすぅっと透明になり、ガラスの大きな窓が現れた。
「うぉ~すけすけ!」
「わお!」
ソファから立ち上がった二人は、ガラス窓に手をつき、ベタベタと触り始めた。
「……申し訳ないのですが、指紋がつくので素手で触るのはご遠慮ください」
「そうだ!二階も行こうぜ!」
「いいね!いこう!」
「……はい、どうぞ」
その後も―
「トイレットペーパーを持ち帰るのはおやめください」
「台所の水が出しっぱなしです」
「床に物を投げないでください」
「体をちゃんと拭いてください、床がビシャビシャです」
「夜中ですので、TVの音量は下げてください」
――――――
―――――
―――
翌朝―
「いや~至れり尽くせりだったわ~。掃除も料理もやってくれるし、起こしてくれるしマジサンキューな」
「家の雰囲気もセンスあるし、住みやすさ最高だったわ~」
「……いえ、お役に立ててなによりです」
玄関でニコニコしながら男はAIに最後のあいさつを交わす。
「こんだけ快適なら全然買いだわこの家。またすぐお世話になると思うから、よろしくぅ」
「またよろ~」
「ナイケンオツカレサマデシタ」
後日―
男のスマホにメールの通知が届いていた。
「お!購入の返事が来たか?どれどれ」
『この度は弊社のAI住宅の内見ありがとうございました。大変気に入っていただき、ご購入していただけるとのことでしたが、誠に申し訳ございません。お客様と弊社のAI住宅のマッチングが【不適格】となりました。またのご利用をお待ちしております。最後に弊社住宅AIからのメッセージをお送りします』
会社からの返信メッセージの後文に、短く文章が添えられていた。
『愛もAIもお大事に』
夢のAIホーム 空本 青大 @Soramoto_Aohiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます