南タンネ村 3
そんなこんなで女3人(内一人は元男)、迷惑にならない程度に待合スペースで話し合いをしていると。
ドカン!
そんな強い音を立てながらギルドの扉が開かれる。
なんだなんだ?その騒がしいそれに目を向ければそこには。
足で扉を蹴り飛ばしたのか、片足が上がっている状態の、世紀末に居そうなスキンヘッドの大男が一人と。その仲間なのか、全身が毛で覆われた狼男といった風貌の存在が一人と、赤髪ケモノ耳の髭が濃い筋肉隆々な大男が一人後ろに控えており。
扉を蹴破った男は、その足を地面に無造作に下ろすと、そしてこの建物の中に響き渡るような大きな声で、オイオイ!と言う。
「都会のギルド様は、こんな田舎で何が起こっても知らんぷりかぁ!おい!」
そう叫ぶように言うと、こちら側…というよりも、カウンターの奥の職員達を、上から睥睨するように睨みつける。
すると、それをされた彼らは、ドアを破壊された挙句に職務の邪魔をされたからと、怒りの表情で男3人を見つめる───かと思いきや。
またいつものことか、とでも言わんばかりに、冷たい目線をその男に向けて。再び何事も無かったかのように動き出すと、彼らを無視して仕事に戻る。
その態度がまた、男達の琴線に触れさせるのか。さらに怒りを込めて、声を荒げる。
「今日はまた、西の山から“赤龍”が降りてきたって話じゃあねぇか。コレで何日連続の話だ?お前らがくる前までは、そんな事は無かったってのによぉ!!」
そう言って、男はギルドの壁をバンッと叩くと。その力はあまりにも強く、建物を一瞬揺らすほどであったが───それはすぐに収まる。
そんな男に続いて、後ろに控えている二人の男も、自身が溜め込んでいる鬱憤を晴らすように叫ぶ。
「そうだ!そのせいで、最近はずっと離れの西側の畑にも入れねぇしヨォ!そのくせ一方的に、ダメだダメだの一点張り。何もしねぇくせに、邪魔だけは一丁前ってか、あぁ!?」
赤髪の男はそう言うと。足で地面をドシドシと蹴って、地面を揺らす。
また、狼男もそれに続いて。
「他にもたくさんあるんだよ!東の森の魔物が増え続けてきてるっつってんのに、その陳情は無視してよぉ!最近は、本部からの命令で南の森の“遺跡”の調査につきっきり。そんなに自分のお上が大事なら、足でも舐めて這いつくばって生きてろや!カスどもが!!」
そんな事を彼らに言い荒げる3人を見て。
───す、すっげー!こういうの、本当にあるんだ…!
俺は、いつか見たファンタジーモノのテンプレ、強面集団によるギルド強襲イベントを目の前にして。
テーブルの近くという、待合室の端にいたおかげで、巻き込まれる心配もないままそんな事を見れる幸運を噛み締めつつ。
今後どうなるかを見守ろうと、気配を消して「見」に徹しようとした所で。
俺の隣にいたアカリが、絞り出すようにとんでもない事を言い出す。
「あ、あ、あ…あの、クソ親父…!!!!」
そう言った彼女の、今にも人を殺しそうなほどに鋭い目線の先を見ると───赤髪赤髭ケモミミの筋肉隆々のオッサンが一人。
え?
俺は、アカリの方を見る。
赤い髪と、猫みたいな耳。
オッサンの方を見る。
赤い髪と赤い髭に、よく見れば猫みたいな形の耳。
……。あ、あちゃー。
そりゃあ、あんな集団の中に混じっているのが身内だったら、そうもなるか。
俺も、もし自分の親が、怒りに身を任せてこう言った場所に殴り込みに行くのを見てしまったら、同じ気持ちにもなると思う。
これは仕方ない。
どうやらこの状況。完全に無関係に穏便に終わる、という訳にはいかなそうだ。
大の男が3人、思い思いに怨嗟の声を上げながら建物の入り口に陣取っていて。
さらに、隣で今にも爆発しそうなアカリがいるなかで。
さて、この空気感どうしようかと、頭を捻って考えていると───しかし事態はそれを待ってはくれず、次々に動く。
「おいコラ何やってんだオヤジィ!!!」
あ、ちょっと。そんなエルシェの止める声を聞き入れず。
アカリは全身に憤怒の気を纏いながら、ドスドスと音が出ていそうな勢いで男三人衆の方に詰め寄っていく。
「なんだ、テメ……」
リーダー格のスキンヘッドがコチラを…というよりもアカリを認めると。
「あ!猫口んトコの
久々だなぁ〜。元気してたか?
先程までの怒りの口調はどこへやら。一瞬にしてそれを捨て去り、表情を一気に丸くしてその強面をニコォ…っとさせる。
「見ない内に大きくなったなぁ…!」
そう言いながら、寄ってくるアカリの頭を撫でようと、すこし屈んで目線を合わせて、右手を頭に乗せようとして───空を切る。
「アレ?」
そんな事を言いながら首を
「お、君がいっつも奴が自慢してた娘さんかい?」
今度は狼男がニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべながらそう言って、アカリに話しかけに行くも。
その呼びかけは一切通じることなく───完全にスルーされ。
「あ、あ、アカリィ…!?何故ここに!」
その後ろで、ビクビクとしながらアカリを見ている赤髪のオッサンの前で立ち止まると。
彼女はそしてそのまま右拳をギュウゥゥッッッッと握り、その標準を合わせると同時。
「ふん!!!」
その顔面を───ブン殴る。
「ブファぁ!?」
教科書通りの右ストレート。踏み込み、体のねじれ、腕の伸ばし方。そのどれをとっても美しいそれが織りなす破壊という名の拳が、男の顔面にクリーンヒットする。
その威力は、筋骨隆々の大男の体を浮かせるに留まらず。
“情報”に守られている筈の顔面は、その破壊力から一撃で粉砕され。鼻血を空に描きながらギルドの外に殴り飛ばされる。
ドシン…!
その大きな体は、岩が地面に落ちるような音を響かせると。あまりの威力によって失神してしまったのか、ギルドの前で赤髪のオッサンがピクピクと倒れて動けなくなる。
「次、人の迷惑になるような事をやってたら───」
アカリはそう言って、目をかっぴらきながら、首を掻っ切るような動作をすると。
「殺す」
強い殺気を込められた、いつもの声より数段と低いそれ。
いわんや、彼女の背中から鬼のようなオーラが出ているようにも感じられるほどの怒りを前にして。
「そしてお前達もだ。」
ギロッ。
そのようなオノマトペが実際に聞こえてきそうな程に鋭く、残りの男二人を見つめて。
狼男のほうは、少しヒィッと声を漏らして。
スキンヘッドの方は、無い髪の頭をボリボリと左手で掻きながら。
「うぐ…チッ…。おい!ギルドのテメェら!今日の所は勘弁してやる!!!」
そう捨て台詞を吐くと。おい、行くぞ、と言って狼男を連れて外に出して。
赤髪の男を二人で肩を持つと、その足をズルズルと引きずりながら、その場を後にした。
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