内見を弟に行かせるな

葎屋敷

八月三十日

 拝啓、いかがお過ごしでしょうか。

 私の方は外気がまったく入らない個室にて、業務を遂行しております。まだまだ残暑の厳しい季節ですから、お姉様も体調にはお気をつけください。

 ところで、先日のメールに書かれていた「三ヶ月以内に私が住む家を探しなさい」とはどういうことでしょうか。まるであなたが住む家を私が探さないといけないように読めるのですが。まさか、ですよね?

 いいですか、お姉様。住居とは人が帰る場所。お姉様のように自営業を営むと言って放浪の日々を重ねている方にはわからないかもしれませんが、家とは家主が一日の仕事で上司から罵詈、客から誹謗、同僚からの中傷を受けた傷を癒すような場所を言います。要は心のオアシスとなるべき場所です。自分で選んでこそ、そうではないですか?

 まさかと思いますが、そんなオアシスの場所決めを弟に一任しようという腹積もりではないですよね?



 馬鹿なんじゃないですか? しかも仔細並べられている条件が厳しすぎます。こんな好物件はこの世にありません。そんなにマイホームに夢があるなら、自分でお探しください。私はあなたの部下ではありません。私が探す義理などない。

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