ルージュの巻き込まれループ人生~誰なの!?何度も死に戻ってるのは!~
阿井 りいあ
0章 覚悟を決める時
1 決して大人になれない私
────私はもうずっと、誰かの「死に戻り」に巻き込まれ続けている。
※
「ルージュ、結婚してくれ!」
ああ、やっぱりこうなってしまうのか。
思わずため息を吐きそうになってグッと堪える。
今、目の前で私に求婚してきたのは、冒険者のリビオだ。
右目の下にある二つ並んだ泣きボクロが特徴的な、色素の薄い茶髪を靡かせた美男子で、実力派の冒険者として名前も売れ始めている優秀な人物である。
つまり、かなりモテる。恋人や結婚相手として有望だ。
それを自覚しているのかはわからないが、いつでも自信満々で前向きな眩しい男でもある。
今だってそう。
わぁ、すっごい笑顔……私とは正反対。
しかしこの人、毎回どうしてこうも一足飛びなんだろう。
愛の告白だったら、まずは思いを告げるところからなんじゃないの? それとも、これが主流なのかな。
そもそも、だ。すでに五回ほど
それでも求婚されるってどういうこと?
一体、彼は私の何が好きなのだろうか。
見た目? この燃えるような真っ赤な髪が好きなの?
こんなに不愛想なのに。テンション低いし。趣味が悪いんじゃないかと心配になるよ。
それも、身寄りのない子どもが集まるヴィヴァンハウス出身の女相手に。
今はただの雇われ店員だよ? 食堂の。
「ごめんなさい」
「なっ、なんでっ!?」
断られるとは思っていない、この反応も五回目。
だよねー。普通の娘からすれば、彼のような優良物件を拒む理由なんてないはずだ。普通なら飛びつく。
まぁ、リビオはそんなこと思っていないだろうけど。これはあくまで周囲の人たちの代弁だから。
いやー、ごめんね。君のことは嫌いじゃないけど、どうせまた無意味になるんだと思うとそもそも恋愛感情を抱けないんだよ。君に限ったことじゃないんだ。
「だってリビオのこと、そういう目で見たことないから。それに……」
いつも通り、表情を変えずに淡々と言葉を紡いでいく私。
ショックを受けたような、悲しそうな水色の瞳と目が合う。
「十八歳を過ぎるまで、誰とも恋愛しないって決めてるし」
「え、でもそれってあと数日じゃ……」
確かに、あと三日で十八歳にはなるけど。
でも私が言いたいのはそういうことじゃないんだ。
この先もずっと、誰とも恋愛しないという意味なのである。
ならその年齢制限はどういうことかって? ……すぐにわかる。
たぶん今日か明日、遅くとも二日後までにはいつものが
そう考えた時、見事なタイミングでぐにゃりと視界が歪んだ。
「……ほらね。来た」
「え、なにが————」
ぽつりと呟いた私の声に疑問を漏らす、リビオの声も歪んで聞こえる。
また、誰かが人生をやり直したのだ。
私は、その「誰か」の死に戻りに巻き込まれ続けている————
※
「……今回も、そこそこ長く生きられたなぁ」
硬いベッドの上で目を開けた私は、今の状況を正確に把握していた。確認しなくてもわかる。
自分の身体が五歳に戻っているだろうこと。
今いる場所が、物心つく前から私がお世話になっているヴィヴァンハウスだということ。
もうそろそろ、子どもたちを起こしにシスターたちがやってくることも。
「朝よー! 子どもたち、起きなさーい! あら、ルージュ。早起きさんね」
ほらね。シスターの良く通る高めの声は、寝起きの頭に響くんだ。
ぐっすり眠っているところにこの声が聞こえると、飛び上がらんばかりにビックリするんだよね。
「おはよーございます、シスター。目が覚めちゃった」
「そうなのね。よく眠れなかった?」
「ううん、だいじょーぶ」
五歳児らしく返事をすると、シスターはまだ寝ている子どもたちの布団を引っぺがしに向かった。
ふぅ、子どもらしく振舞うのも慣れたものよ。私が何度、五歳を経験しているとお思いか。
ま、知るわけないか。
体感では、すでに百年以上は生きているんだけどね。
でも私は未だ、一度も大人になれていない。
最高記録は十七歳。あと数日で成人と認められる年齢になれたというのに、どうしてもなれないのだ。
今回もそう。あと三日で誕生日だったのに、この通り戻ってしまった。
戻るタイミングはバラバラだ。
十八歳間近で戻ってしまうこともあれば、十歳の時点で戻ってしまうこともある。
酷い時は五歳に戻った数時間後に戻ったこともあったっけ。それが五回ほど続いた時は、さすがに気が滅入った。
もはや完全にランダム。毎回、毎回、ルーレットでも回されている気分。
ただ共通しているのは、絶対に十八歳になる前には戻ってしまうということ。
……永遠の子どもだなんて、シャレにならない。ほんっとーに、いい加減にしてほしい。
何度繰り返したのか、もはや覚えてすらいない。数えるのも面倒で。
でも近頃は、十八歳になるギリギリまで人生を送れることが多いから、まだマシかもしれない。
けど……いずれにせよ、未来がないと思うと生きる気力も失うというものだ。
「人生に、飽きた……」
「……えっ」
朝食の席で、五歳児が死んだ目をしながらそんなことを呟いているのを聞いたシスターは、一体どんな気持ちだろうか。
ごめん、でも気にしている余裕はない。聞き間違いだったとでも思っておいて。
今日も固いパンとシンプルなスープは味わい深いですね。もぐもぐ。
シスターは何ごともなかったかのように朝食を食べ始めた私を見て、軽く首を傾げてから他の幼い子どもたちの世話をしに行った。そうそう、貴女は何も聞こえなかった。
……はぁ。あれは何度目の人生だったかな。
偶然にも、私はこのやり直しの原因が何なのかを突き止めた。
いや、突き止めたといっても確認する術がないから、それが合っているのかはわからないけれど。
それまでは、時間を巻き戻す魔法か何かを使われているのかな、と思っていたんだよ。もしくは、神様のきまぐれかなんかかなって。
だから自分には何か使命があるのかも、と思っていた時期もありました。
何かを成せば、このループから抜け出せるんじゃないかって。
でも違った。
これは、死に戻りの呪いだったのだ。
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