3-5 命を弄ぶ

「な、なんだ!? 何が起きている?」


 魔王軍の兵士たちは困惑していた。

 今さっきここで血の海に変えた女子どもの肉体が再構成されているのだ。


 人間の内側の臓器から再生され、骨、肉が元のように再生していっている。

 

 何が起こっている分からない魔王軍の兵士たちはそのあまりにも常軌を逸した現象に驚き、目を奪われ、立ちすくんでいた。


 やがて再生が完了すると、自我がおかしくなっているレベッカは確かな殺意を込めた冷たい声で命令を下した。


「殺して」


 レベッカが村人を使って生み出してしまった不死の軍団が魔王軍を襲う。


「へ、へへっ。仮に何らの方法で生き返ったとしても、また殺してやらあ、いいだけのことだぜ!」


 勢いよく振り抜かれた剣が、蘇ったリアムの首を両断する。

 

「へっ、ざまあみやがれ! ――ッツ!」


 歓喜の顔が一瞬にして驚愕へと塗り替わる。

 なぜなら、普通ではありえないことが起きているからだ。


「まっ、また、首が生えてきやがる。ど、どうなってるんだ?」


 動揺した兵士は剣を無我夢中で振り回す。全ての攻撃がリアムを切り刻むが、いずれもすぐさま再生してしまう。


 気づけば兵士の周りには取り囲むように、蘇った村民たちがいた。


 そして全員が寄ってたかって力を加えていく。


「く、くそっ、あいつを助けるんだ」


 周りの魔王軍の兵士たちも集られている彼を助けようと剣や槍で攻撃するが、いくら攻撃をしてもすぐに傷が再生してしまう。


「ひっ、ギャ、や、止めてくれ! うわあああああああ」


 気づけば魔族の兵士は八つ裂きにされていた。

 レベッカの命令に従わざるを得ない不死の軍団たちが、あらゆる方向から力を加えたのだ。その結果身体が裂けて死んだ。


 その様子を見た兵士たちは、あまりの光景に息を呑んでいた。そして――。


「に、逃げろ!」「こいつら死なない!」「撤退だ!」


 一斉に逃げ出そうとする魔王軍だったが、狂ったレベッカはある魔法を使った。


 魔王軍たちはそのことを空の色が変わったことで気づく。


「結界魔法……?」


 レベッカが使ったのは結界魔法。

 結界魔法とは内側の存在を閉じ込める魔法だ。基本的には内側からの破壊は困難とされている。だから、レベッカとコメットが戦ったときも、遥かに格下の相手なのにレベッカはその破壊に手間取っていた。


「く、クソっ、逃げろ! 結界内の隠れられそうな場所に逃げろ!」


 逃げる兵士たちを追いかける不死の軍団たち。

 スピードでは兵士たちの方が勝っているに違いないが、不死の軍団たちに徐々に追いつかれてしまう。


「こ、こいつらこれだけ全力疾走をしてるのに……、疲れない、のか?」


 魔王軍兵士の一人が体力が無くなったせいか、地面に落ちていたリンゴに躓いて転んでしまう。


 すると村民たちは先ほどのように兵士を囲い込んだ。 

 必死の抵抗虚しく捕まった兵士は両手足を固定されてしまう。


 ただ、先ほどとは違って不死の軍団は武器を持っていた。


 武器――果樹の剪定に使う鋸だ。

 その使い込まれた切れ味の悪そうな刃を見て、捕まった兵士はたまらず叫ぶ。


「た、助けてくれ! だ、誰かあ!」


 気づけば何事かとこの街を襲った魔王軍の一軍が集結していた。


 そこには魔法を使える魔族もいたようで、物理攻撃が効かないならと魔法攻撃で捕まった者を助けようとした。


「魔法班、撃て!」


 レベッカ達が隠れていた地下貯蔵庫を吹き飛ばした魔法が、不死の者たちに降りかかる。捕まっている味方に当たらないように狙いすました魔法は確かに、蘇った人々を焼き尽くす。


 一瞬だけ力が緩み、捕まった兵士は抜け出そうとするが。


「だ、駄目だ。魔法攻撃でも……一瞬で再生していく……」


 魔族の魔法使いが思わずぼやく。

 そして、切れ味の悪い鋸でゆっくりと兵士が切り裂かれていく。


 鋸を引く度、鋸を押す度、悲鳴が畑の中を木霊していた。


 味方を助けられないと悟った魔王軍はとにかく蘇った村民から逃げることを目的に、果樹園の中を散り散りになって逃げまわった。


 そして、体力の無くなった者から殺されていく。


 しかも残虐に、なるべく苦しめるように、けど効率良く村を襲った魔王軍は殲滅されていった。


 最後に残った一人、魔王軍の指揮官も蘇った村人たちに囲まれていた。


 レベッカは恨みを込めるように、村人たちを使って生きたまま皮をはいでやった。

 採った動物の皮を剥ぐことはしょっちゅうだったので、その要領でやればあまり難しいことではなかった。


 ただ、そいつは他の魔族とは違って、あまり反応をしなかったので、レベッカとしてはあまり楽しくなかった。


 皮膚を剥がした死にかけの指揮官は、見下すレベッカに対して小さくこんなことを呟いていた。


「わ、我らは、貴様と違い、命を弄んだりは、しない。その罪は、いずれ、貴様に降りかかるだろう」


 この魔族が何を言っているのか、レベッカには理解することができなかった。

 

 何も言わずに攻めて来て、大切な人たちを皆殺しにしたくせに、どんな理由でそんなことを言えるのか。


 それからも指揮官は何かぶつぶつと言っていた。

 少し放置してから命を絶ってやろうと思ってレベッカだったが、うるさくなって来たので、塩水をかけて狂わせて殺してやった。


 レベッカは疲れていた。

 とにかく怒りで暴れに暴れた結果だ。


 緊張の糸が切れたレベッカはその場で意識を失い地面に倒れた。


 レベッカの操り人形と化し魔王軍を残虐に殺し続けた村人たちに、今まで向けられたほどのないような冷たい目線を浴びていることなど露知らずに。

 

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