2-3 アッシェ領ヴェルプラン
レベッカ達はルビーの故郷に旅を経て辿り着いた。
魔族領に到着したのでルビーにかけていた人間に変身する魔法は解いておいた。
一方、人間のレベッカとリアムは魔族へと変身する魔法を使った。
レベッカはルビーと同じような獣化タイプの魔族……猫っぽい耳と尻尾が付いている。リアムはちょっと耳の感じが犬のような魔族の姿に変身した。
「レベッカも、リアムもかわいい! 尻尾触っても良い?」
「え、え、うん。わたしたちの尻尾に神経は通っていないけど……」
「じゃあ、遠慮なく!」
最初にリアムの方に飛びついたルビーは彼に蹴っ飛ばされていた。
ここは、アッシェ領ヴェルプランという、アッシェ領の首都だ。元々、魔族領には魔王という魔族をまとめあげる存在がいたのだが、十年程前に勇者によって討ち取られた。
アッシェとは、アルの一件にも出てきた魔王七護番『巨撃のアッシェ』のこと。魔王は、一番の部下たちである魔王七護番に魔族領を分割統治させていた。
現在の魔族領は、魔王七護番同士が争う戦国時代ではある。それでも、魔王に与えられた領地を彼らは大事にしており、その中で一番大きな街を首都にしているのはどこも同じだった。
アッシェ領ヴェルプランもそういう街で、『巨撃のアッシェ』の居住ができ、それに付随する軍がやって来たことで、人口が増え、経済的にも成長した過去がある。
今では、軍に属する魔族たちより、普通に街で生活する魔族たちの方が住みやすい街にまでなっている。
みたいなことをルビーが旅の道中で語ってくれた。
レベッカとリアムはそれを興味深く聞いた。人間と魔族は永い時間争っており、互いの歴史、ましてや一都市の変革なんて全く知らなかった。
そもそも歴史は、それなりに地位のある貴族や、歴史は学ぼうと思ったりする人が知っているだけであり、辺境の村出身であるレベッカとリアムは、自国の歴史を教わったことは無かった。だから、ルビーが街の歴史を知っていることに驚いたものだ。
ルビーから聞いたことを思い出しながら、街中に入ると、王都との違いにレベッカとリアムは眼が釘付けになった。
「わ、カラフルな、街並み。そ、それに、建物が、高いね」
「王都とは違った良さがあるな」
「でしょ! 人間の王都も良かったけど、ここも負けてないよ!」
アッシェ領ヴェルプランの街を見たレベッカとリアムは景色に心を奪われていた。
王都は建築の効率化のために都市の設計計画が王や貴族たちによって制定される。そのため、区画ごとに似たような街並みになる。
一方のアッシェ領ヴェルプランは自由だった。
建造物が高く、増築を繰り返しているのが見るだけで分かってしまう。だって、見るからに二階と三階部分で色が変わっているからだ。
作り手の個性が伺える面白い街だった。
「そ、それでルビー。故郷に帰って来たけど、行きたい場所は無いの?」
「あるよ! 昔お世話になった学院に、お気に入りのスイーツ屋さんに、幼馴染がやってる花屋さん。それに……実家」
やはりルビーは自身の彼女の話になるとテンションが低くなる。
何かあるのは間違いないだろうが……。
死霊術の力を使えば無理やり話させることも出来るけど、そんなことしたくない。
「で、どこから行くんだ?」
「まずは……」
ルビーの視線が揺らいだと思ったら、何かと目が合ったらしく固まっていた。
表情が驚きから、圧倒的な喜びがこもった笑顔へと花開く。
ルビーの視線の先にいた相手にレベッカは視線を移した。
まだちょっとあどけなさが残る一方で、落ち着きを感じられる相貌。身体はまだまだ成長途中といったようで線が細い。成長期が来たばっかりのルビーと同じくらいの年齢の少年。
柔和な笑顔が似合いそうな少年だが、彼は明らかに驚いていた。
そして、瞳から涙が流れた。
「お、おまっ、お前、ル、ルビー……?」
「ヴァン君! 凄い久しぶりだね」
ルビーにヴァン君と呼ばれた優しそうな少年は、驚いて泣いたと思ったら、また別の表情を見せた。
「ど、どこ行ってってたんだよ。お前の母さんに聞いても、行方不明だって言われて……、どれだけ心配したと思ってるんだよ!」
明らかにヴァン君とやらは怒っていた。でも、怒るのには慣れていないのか、ちょっと息を荒くしたせいで呼吸が乱れている。心配していたからこそ怒っているのが、部外者のレベッカにも伝わってきた。
「え、ええと……」
ルビーも彼に怒られることが珍しかったのか、明らかに狼狽している。
でも嫌そうじゃなくて、寧ろ嬉しそうだった。
だけど、詰められてどうしたらいいのか、分からなくっているみたいだ。
「れ、レベッカ、説明して~!」
「え、ど、どうしよう。た、助けて、リアム君」
自分に話が降られると思っていなかったレベッカは思わず、リアムへと判断を委ねてしまった。
そんな情けないレベッカの様子を見たリアムはため息をつきながらも、冷静な提案をすることにした。
「レベッカ姉ちゃん。ルビーと相談する用の結界を張って。ヴァンさん。悪いんですけど、少し待ってもらって良いですか?」
「結界魔法ですか……凄いですね。でも、どうしてこそこそとお話をする必要性があるんですか?」
ヴァンの疑いがこもった目線が痛い。
他人に聞かせらない悪い話をすると思われても仕方がない。
これからこそこそ話す内容は、ルビーの事情を他人に聞かせるかを決める話し合いになる。疑われても聞かせるわけにはいかなかった。
「る、ルビーさんがアッシェ領ヴェルプランに戻って来たのは、だ、大事な理由があります……。なので、それをヴァンさんに話しても良いか、と、いうことを、ルビーさんと話し合わねばなりません」
ヴァンは相変わらず怪訝な表情をしている。だけど、ルビーのことは信頼しているのか、次のような質問が飛んできた。
「あの、貴方たちはルビーとどのような関係なのでしょうか……?」
元はと言えば、協力者だった。アルを探し出すために、死者の国から呼び戻させてもらった。その代わりに何か、望みを叶える。そういう関係だった。
でも、もう今は『ともだち』だ。
そうレベッカが答えようとしたときに、ルビーがそれより早く答えた。
「と、友だち! だよ」
ルビーはちょっと照れ臭そうだった。普段はあんまり物を考えていなさそうで、友達なんていっぱいいそうな彼女が、『友だち』という言葉に照れを見せるのはレベッカにとっては意外だった。
「あのルビーが友達を……。それは嬉しい限りです。でしたら、お好きなように話し合ってください」
だけど、ヴァンにとっては別の意味で意外だったようで、あっさりとレベッカとリアムのことを信頼した様子を見せた。
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