第4話 家族との食事

泣いて泣いて疲れ切ったころ、馬車は伯爵家の屋敷へと着いた。

無理やり下ろされて、屋敷の中へと連れて行かれる。

二階の客室だと思う部屋に入れられ、お父様は侍女へ命令していた。


「どうやら公爵家で甘やかされわがままになっているらしい。

 泣きわめいても部屋から出すな!」


「わかりました」


部屋は外側から鍵をかけられてしまった。

窓から出られないか見たけれど、飛び降りるのは無理そうだった。

あきらめて寝台の上にころがって泣き続ける。



ドアをノックされる音で起きると辺りは真っ暗だった。

泣いているうちに寝てしまっていたらしい。


「……いいわ」


「失礼いたします。

 夕食の時間になりましたので案内いたします」


「いらないわ」


「いえ、旦那様が必ずお連れするようにと」


「……わかった」


私が嫌がっているのがわかったら、

また部屋まで来て無理やり連れて行かれるかもしれない。




侍女の案内で屋敷の廊下を奥へと進む。

家族用の食事室に入ると、もうすでに三人は座っている。

私が来るのを待たずに食事を始めていた。


「遅いぞ。待たせるな」


「ごめんなさい」


「早く座れ」


空いている席に座るが、三人との席は離れている。

まるで三人家族に招待された客が座るような位置だ。

誰が見ても四人家族だとは思わない。


お父様と伯父様は兄弟だけど似ていない。

伯父様は高位貴族らしい金髪青目の外見で陛下の相談役をつとめている。

お父様は公爵家の生まれではあるけれど、薄茶の髪に茶色の目だった。


伯父様は元王女の伯母様と結婚し、生家のデュノア公爵家を継いだ。

お父様は伯爵令嬢だったお母様と結婚し、

このバルテレス伯爵家に婿入りしている。


バルテレス伯爵家も王家に長く仕える家系で信頼されている家だった。

そのため二男であったとしても、

公爵令息だったお父様が婿入りを許されたと聞いている。


薄茶色の髪のお父様の隣に、茶髪茶目のお母様と、

薄茶の髪と茶目のマーガレットが並ぶ。

マーガレットは色はお父様に、顔立ちはお母様に似ている。


白金の髪と紫目の私だけが違って、異物が紛れ込んでいるかのようだ。

顔立ちもどちらにも全く似ていない。

伯父様の娘だと言ったほうが信じてもらえるのではないだろうか。


誰も一言も話さずに食事は進む。

お父様もお母様も不機嫌そうな顔のままだ。

それほどまで嫌なら、私を呼ばなくても良かったんじゃないだろうか。


出てくる料理は公爵家にいた時とさほど変わりはないが、何を食べても味がしない。

昨日まであんなに楽しかった食事が苦痛に感じる。


やはり誰も私が伯爵家に帰ってきたことを喜んでいない。

第二王子の婚約者になったことで、仕方なく戻したということなのかな。


はぁ……とため息が出てしまった。

とても小さいため息で、向こう側には聞こえないと思った。


ふと視線を感じて顔をあげると、マーガレットと目があった。

丸いマーガレットの目が驚いたように開かれると、すぐに目をそらされる。

いったい何がと思っていると、異変を感じたお母様がマーガレットに声をかけた。


「マーガレット、どうしたの?」


「ううん、なんでもないの」


「なんでもないって、あなたほとんど食べていないじゃない!」


ここからでは見えないが、食事が進んでいないらしい。

無理もないと思ってしまう。こんなに暗い雰囲気では食べたくなくなるだろう。

マーガレットに同情したのはそこまでだった。


「だって……お姉様が怖いの」


「なんですって?何があったの?」


「さっきからずっとにらみつけられていて……」


「え?」


ずっとって。

私の目つきが悪かったとしても、目があったのは一度だけだった。


「まぁ!それだけじゃないのよね?

 あなたがこんなにも怯えているなんて。

 大丈夫よ。お母様に話してちょうだい」


「だって……怖い」


「何があってもお母様はマーガレットの味方よ」


「あのね、さっきお姉様が私の部屋に来て、

 私には妹なんていない、すぐに追い出してやるんだからって」


「そんなこと言っていないわ!」


何を言いだすのかと慌てて否定しても、お母様は私をにらんだ。


「まぁぁぁ。やっぱり公爵家で育てられたから傲慢になってしまっているのね。

 血のつながった妹にそんなことを言うなんて」


「だから、私は言っていません!」


「ベティ、どうなの?」


お母様は私が否定しても聞かず、後ろに控えていた侍女に聞いた。

まだ若い侍女だから、マーガレット付きの侍女だろうか。


「はい。さきほどアリアンヌ様が突然マーガレット様の部屋に押しかけてきまして、

 妹とは認めない、私がこの家に来たからには追い出してやるとおっしゃっていました」


すらすらと嘘をつく侍女に口をつぐんだ。

あぁ、もう何を言っても無駄なことだ。

マーガレットが仕組んだのか、お母様が指示を出したのか。

この家には私の味方は誰もいない。

そんなことは来る前からわかっていたことなのに。


くやしくて唇を噛みしめたら血の味がした。


「ねぇ、あなた。やはりアリアンヌを自由にさせるわけにはいかないわ。

 マーガレットに何かあってからでは遅いのよ」



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