マーダーマンション

魔女っ子★ゆきちゃん

シリアルキラー吉良影吉のキラー・キャッスル

00 シリアルキラーとは?


 シリアルキラーの定義はFBIのレポートによると以下の通り。


①1人、まれに複数人による犯行

②2人以上の殺人の被害者がいること

③殺人事件が、それぞれ別個のものであり、別の時に起きていること

④犯行が一定の間隔を置いて行われることが大量殺人 (mass murder) と連続殺人 (serial murder) を区別する。


0 血に飢えた殺人鬼


 俺の名は吉良影吉きら かげよし、30歳。とある不動産会社に勤務するエース営業マンだ。

 身長184cm体重94kg、学生時代はラグビーに明け暮れていた。

 鍛えあげられた肉体から繰り出す高速タックルは、俺より体格の良い連中をも震え上がらせたものだ。

 現在も週に二日のペースでジムに通い、毎日のトレーニングも欠かさない。

 営業マンとしては、人当たりが良く、周辺の

不動産を始め、様々な情報に通じている。

 資格としては、宅地建物取引士は当然のこと、他に司法書士の資格も保有している。

 そのため、取引に関する所有権移転や、抵当権、根抵当権ねていとうけんその他の権利に関する登記は、俺が申請することができ、開業している司法書士よりも格安で応じているため、売買当事者や銀行員などに喜ばれている。

 俺の営業成績が常にトップの理由の一つが、これによるものであると思われる。


 ただ、この吉良影吉には、人には言えない趣味があった。

 若い女を凌辱りょうじょくしながら虐殺ぎゃくさつすることに無類の喜びを覚える。これは、決してあらがえない魂のさが

 そう、吉良影吉はシリアルキラーなのだ!


 しかし、最後の殺人は、もう3年以上前にさかのぼる。

 あれは確か、25歳のOLだったはずだ。

 正常位で犯しながら、ナイフで腹を裂き、内臓を引きりだしてやった。

 生涯で最高の凌辱虐殺だった。

 あの時と同じ、いや、それ以上のモノを得たい。

 そろそろ、我慢の限界だ。次なる獲物が現れるのが待ち遠しい。


1 賃貸マンションを探す少女


 その日、賃貸マンションや住宅の内見に現れた客は母親に連れられた可憐な女子高生だった。

 まだ、あどけなさが残る容姿ながら、かなりの上物だった。下手なアイドルや女優をもしのぐ程と言って良い。

 思わず内心ほくそ笑む。新たなターゲットは決まった。


 一件、二件と案内し、本命の三件目へと案内する。

 実はこの三件目は、俺個人の所有マンションだ。ここを、さも賃貸マンションのていで案内する。

 先の二件は、ここの引き立て役に過ぎない。

 ここは立地条件から月々の家賃まで、最高の条件が揃っている。なにせ、ここのオーナーが求めているのは賃料ではなく、賃借人の生命いのちなのだから。


 部屋を隅々まで見て回っていた少女が、母に告げる。

「お母さん、私、ここが気に入ったわ♡ 駅から近いし、眺めも良いし、周辺に色々なお店も揃ってて……。ここにしたいわ。ねぇ、良いでしょ?」

「確かに。ここなら、通ってきやすいわね。でも、ホントに大丈夫? ひとり暮らしなんて……」

「もうっ! 蒸し返さないで! その話は終わったでしょ!」

「わかったわよ……」

 母親が、こちらに歩み寄って来る。

「こちらでお願いしたいのですが……」

 俺は内心でガッツポーズした。


2 殺人城キラーキャッスル


 唐突とうとつな告白となるが、俺には不思議な超能力がある。

 それに気が付いたのは、小学五年生の時だった。

 近所で虫や小動物を捕まえてきては、殺害するのが、当時の趣味であった。

 最初は小さな虫で満足していたのが、だんだんと物足りなくなり、やがて、カエルやトカゲ、ヘビや鳥と、少しずつ獲物が大きくなり、その頃は犬や猫といった動物などもあやめていた。

 ただ、殺すのは良いが、死骸の処理が厄介であったのだが……。

 ある時、俺は室内で猫を殺害した。ナイフでメッタ刺しにして、部屋中血塗ちまみれとなった。

 このときは、あまりの興奮にエクスタシーを感じ、射精した。俺の精通だった。

 これが、のちの趣味である凌辱虐殺の第一歩であるのだが、この時に不思議な出来事が起きたのだ。

 俺は猫虐殺の興奮と、初めての射精の快楽でぼうっとしたまま寝転んで、そのまま寝落ちした。

 そして目覚めた俺が見たのは、血の一滴も見当たらない綺麗な部屋だったのだ。

 その後の検証した結果の結論を示そう。

①俺の部屋で殺害したことが条件になる

②死体(死骸)や血液、被害者の所有物などは総て消えてなくなる

③俺が一眠りすると消えてなくなるほか、俺が消えてなくなるのを望むと、俺の目の前で死体や被害者の所有物などが消えていく

④消えた死体や所有物などが別の場所から出てくるということはないため、異次元やそれに類した人間には手の届かない(警察の捜査の手が及ばない)場所に移動していると推定される

⑤俺の所有物は、血などで汚れていない状態に戻る。例えば、ティッシュペーパーに血が飛び散っても、この能力を使えば真っさらな状態に戻る


 俺はこの現象、というか、超能力を『殺人城キラーキャッスル』と名付けた。

 この能力は、無敵だ。これさえあれば、警察の捜査を恐れることなく若い女を殺害出来る。

 とはいえ、女を部屋の中まで連れ込まない限り、この能力は発動しないし、発動出来ない。

 頻繁に殺害を繰り返していては、いつか足がつく恐れもある。

 そのため、俺は趣味の凌辱虐殺と凌辱虐殺の間に二年以上の間隔かんかくを開けることを自らに義務付けた。

 二年に一度のお楽しみという訳だ。そこそこの女ではもったいない。

 最高レベルの美女、美少女でなければならないのだ。

 そして今、賃貸マンションを装った俺のマンションに、最高レベルの美少女女子高生が移り住んでいる。

 豊谷華恋とよたに かれん。それがその少女の名前だ。

 今すぐにでも飛んでいって、凌辱兼虐殺の限りを尽くしたい。

 だが、3日だ。それは3日後のお楽しみに取っておく。

 30代最初の凌辱虐殺は、まだあどけない美少女が生贄いけにえとなる。


3 くだんのマンションに忍び込む・シャワーを浴びる少女


 件のマンションに忍び込む。元々俺の所有マンションではあるが、一応貸している物件なのだ。

 合鍵を使って部屋の中に。その瞬間に、部屋と俺の精神が一体化したかのような感覚にとらわれる。

 これは、殺人城キラーキャッスル発動が可能という証だ。

 元々、天井裏に忍び込めるよう細工をしていたが、ベッドの下に隠れられそうだ。そこで少女の帰りを待つこととしよう。

 待つこと20分。少女が帰ってきたらしい。しかし、俺はすぐには姿を現さず、様子を見ることにした。

 少女は寝室に入ってきたが、すぐに出ていった。

 少しして、シャワーの音。

 俺は少し思案した。

 バスルームに乱入するか? それとも、出てきたところを襲うか?

 裸の少女を襲うのは、服を脱がせる手間がいらないが、逆に言えば、服を脱がせる楽しみがないとも言える。

 数年に一度の趣味だ。最高のシチュエーションで心ゆくまで堪能たんのうしたい。

 俺の陰茎いんけいは痛いくらいに勃起ぼっきしていた。

 もう興奮が抑えきれない。

 俺は直ちにバスルームに乱入することに決めた。

 素早くベッド下から抜け出し、バスルームへと向かう。

 もはや、存在を隠す必要もない。完全防音に殺人城キラーキャッスルの能力もある。

 右手にナイフを握り締め、バスルームのガラス戸を開けた。


4 そこにいたのは可憐な少女ではなく……


「あら、こんにちは。川尻浩かわじり ひろしさん。いえ、本名は吉良影吉さんだったかしら?」

 ガラス戸を開けた先にいたのは、全裸……ではなく、スクール水着を着て右手に拳銃を持った少女だった。

 と、パンッと音がしたかと思うと、ナイフが弾かれるような感覚を右手に感じた。

 しっかりと握り締めていたため、弾き落とされずに済んだが、右手が痺れている。

 見ると、ナイフの刃の部分が破壊されていた。

「あなたが怪我しないように撃ってあげたのよ? 力量差は明らかだと思うのだけれど……」

 身長は160cm程度で、華奢きゃしゃに見える。組みいてしまえば、容易に抵抗不能に出来そうだ。

 だが……。

「お前、何者だ?」

 やっとのことで、声を絞り出す。これはヤバい案件だ。

豊谷華恋とよたに かれんとは、世を忍ぶ仮の姿。その正体は、対超能力犯罪撲滅組織パワーハウスの殺し屋、豊田世梨華とよた せりかよ。以後お見知りおきを」

 トヨタセリカと名乗った少女は、視線をらすことなく、少し会釈した。

 パワーハウス……。聞いたことがある。まさか、パワーハウスが俺のことに気付いていたのか?

 3年も我慢してきたのに。

 怒りがこみ上げてきたが、パワーハウスの殺し屋相手に敵うはずがない。

 こいつらは、超能力を使う凶悪犯罪者を捕らえ、あるいは処刑するために組織されたエキスパートだ。

「わ、わかった。観念するから、銃口は逸らしてくれ」

 俺は力なく両手を上げた。その際、刃の折れたナイフが手から滑り落ち、バスルームのタイルで音を立てた。

「そう? 聞き分けの良い子で助かるわ」

 トヨタセリカはそう言って、銃を下げた。その時、視線が一瞬外れた。

 俺は無意識に高速タックルで突っ込んでいった。


5 不意を突かれた


 吉良影吉が突っ込んできた。大学時代にラグビーで鳴らしたという巨漢相手に、組み敷かれては手も足も出なくなる。

 もちろん、超能力を使えば、危機を脱出出来るものの、私の超能力は、あまりにも燃費が悪過ぎる。

 かといって、マウントを取られては、抵抗するにも骨が折れる。

 でもね?


6 イケる!


 トヨタセリカとの距離はおよそ2m。

 一歩、二歩と踏み出す。あと一歩だ!

 如何にパワーハウスの殺し屋で格闘技やなんかに秀でていようと、この体格差では、俺を止めることなど出来るはずがない。

 イケる! この勝負、もらったぞ!


7 素手だとあなたに敵わないとでも思ったの?


 突っ込んでくる吉良影吉の首を右脇でとらえた。相手の突進力を利用してそのまま投げる。首にひねりを加えながら……。

 吉良の背中が湯船のへりに激突した。

 おそらく背骨が折れたであろう。

「素手だとあなたに敵わないとでも思ったの?」

 吉良の方を向いて声を掛けた。でも、聞こえてないみたいね。

 首が曲がってはいけないところまで曲がってしまってる。即死だろう。

 ふと、この部屋に対して感じていた謎の違和感が消失した。

 この男の超能力がこの部屋になんらかのチカラを与えていたのであろう。

 ただ、それが何かはわからない。

 なんにせよ、報告をしなくては。でもその前に……。

 私はスクール水着を脱ぐと、出しっぱなしで床に投げ出されていたシャワーのヘッドを手に取り、頭から暖かい湯を浴びた。


 おしまい

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