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「昨日、寝るまえまでは頭を打ったとか、おかしい様子はなかったと言うし、おそらく問題ないだろうと思う。だが、だいじをとって、二、三日は休むことになるかもしれないそうだ」


 クラスのあちこちから安堵のため息。明るく心配する女生徒の声もあがる。


 野田先生の最後の言葉は、一般的なクラスメートの安心材料にはなったようだ。みんな勝手に「わー」だの「きゃー」だの騒いでいる。


 だが、そのなかでミヅカさんだけが凍ったように立ちつくしていた。目には涙も浮かんでいる。


 彼女はゴウの恋人だもんな。


 ぼくがぼやっと見ていると、教室の反対側の席にいるスナオと目があった。


 あ、やばい。


 ぼくはあわてて目をふせた。スナオやミヅカさんから目をそらす。


「まあ。そういうことだから、詳しいことがわかりしだい、みんなに報告する。ただ疲労がたまっているだけかもしれないしな。今、われわれが考えたってしかたのないことだ。さあ、授業を始めるぞ」


 野田先生はパンパンパンと手を叩き、ざわつくみんなを静かにさせた。


 スナオやミヅカさんは愕然とした表情を顔にべったり張りつけていたが、ぼくはちっとも焦ってなんかいなかった。


 とうぜんだ。昏睡の原因はぼくだけにはわかっている。


 ゴウがこんなふうになってしまった原因は、悪魔がとり憑いているからにほかならない。


 ようするにゴウの自業自得。


 このさいだから二、三日、悪夢のなかで自分がやったことを反省するといい。それくらいお灸を据えた方がいいのだ。それにゴウはケンカだって強いんだ。もしかしたら、触手の悪魔を振り切って自力でこっちの世界に戻ってくるかもしれないしね。


 そのときのぼくの認識なんて、その程度だった。


 緊張感のかけらもない。

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