隣人の喪失 猫を看取って

桜雪

第1話 3/6 息を引き取る

 猫が死んでしまった。

 18年と数か月、隣にいた猫。

 猫にしては長寿だと思うし丈夫な猫であったため病気でもなかった。

 ただ、今年に入って急激に衰えてはいた。

 1/1の地震の後から急に食欲が無くなったような気もする。


 2月になってからは、1日のほとんどを眠って過ごしていた。

 少しづつ眠る時間が増えていく『チョビさん』を見ていると、もう長くはないのだなと思えた。


 最後の2週間は、もう水しか飲まないような状態だった。

 トイレにもいけず、眠ったまま、その場で用を足すようになった。


 息を引き取る2日前、自分で起き上がり、家の全ての部屋をゆっくりと歩き、休みながら見て回っていた。嫌いだった風呂場も浴槽を覗き込んでいた。

 階段を1段あがっては休み…また1段…2階の部屋を見てまわり、最後はベッドまでジャンプしてあがったことに驚いた。

 あるいは病気で老衰ではないのか?

 今から医者に行けば…。

 そんな都合のよい考えが、ふと頭を過ったが、猫の目を見れば解るものだ。

 最後に僕の部屋のベッドのうえで横になって、しばらく眠っていた。


 最後の夜は動くこともできずに、何かが抜けるような息を幾度か吐いて、静かに息を引き取った。

 少しづつ熱を失う身体、骨が浮いた痩せてしまった猫。

 それは受け止めねばならない現実だと思わせるに充分な亡骸であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る