内見の無い世界

星之瞳

第1話

『こちらがあなたの住む部屋です、身分証をタッチしてください』


今は西暦23〇〇年、すべてが管理された世界。どこの学校に行くか、どの企業に勤めるかは政府が決める。逆らうことはできないそれは死を意味するから。


昔は何でも自分で決めることが出来たそうだ。学校、就職。どこに住むかも。だから住宅の内見が行われ、自分の気に入った家に住めた。あらゆることが自己責任。何があっても誰も助けてくれない、貧困などたくさんの問題を抱えた社会だったそうだ。今は政府がすべてを管理し、貧困は無くなった。すべての人が裕福な生活を享受している。だが俺は昔の厳しい世界に憧れを感じていた。政府の言いなりになっているのにも少し疑問を感じていたから。


『タッチしてください!』

「ああ、解った」俺は身分証をタッチした。パネルが光り、俺の個人情報が登録された。

『これで、この部屋はあなたが住めるようになりました。中をご案内します』

案内のロボに連れられて部屋に入った。単身用の部屋だということだった。

『入って、左側が手洗いとバストイレです。右側が寝室。シングルベッドが置いてあります』廊下をロボは進んでいく。

『あとは、キッチンとリビングが一体となった部屋になります。冷暖房が管理されていますので、窓を開けることは出来ません。洗濯は浴室の反対側にあるランドリスペースで行ってください、ご質問は?』

「俺の私物はどこまで入れられるんだ?」

『設置してあるものが故障したり、壊れた時には必ず申請して指示に従ってください。その他はご自由にどうぞ。申請が必要なものには連絡先のシールが貼ってあります』

「解った。明日から仕事だから生活を整えたい。案内ありがとうな」

『ありがたいお言葉、これが仕事ですから、ではこれで失礼します』そう言うと案内ロボは部屋を出て行った。


与えられた家、与えられた家電。一応生活はこのままでできる。学校の寮からもう少しすれば荷物が届くはずだ。学校の寮も無味乾燥な部屋だったが、ここはまだましか。

荷物が来るまでデリバリーを頼むか。少し食べて荷物が来たら買い物に行くとしよう。

俺はスマホを取り出すと、電話を掛け始めた。






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内見の無い世界 星之瞳 @tan1kuchan

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