は?

 嬉しさのあまりその後の仕事には普段以上に身が入らなかった。何せやっと念願が叶うのである。この時の僕は真の念願がマミちゃんと付き合うことであったことを忘れ、地上波でアメフト男をぶちのめすことが念願に置き換わっていたのである。誰にセコンドの依頼をしようか、トラッシュトークでは何を言おうかとオンエアに向けた考え事をしながら帰り支度をしていると、マミちゃんが急いでこちらに向かって来た。


「なあなあ。彼氏が出演渋ってるねんけどどうしよう。」


僕は驚きのあまり目が点になった。鳩が豆鉄砲を食らうとはまさしくこのような状態であろう。これだけのお膳立てがあって、スベリようのない状況なのに出演を渋る人間がいるのだろうか。この機を逃したら、人と全力で戦うという経験を出来なくなるかもしれないのに試合を渋る人間がいるのだろうか。もしかして地上波に出るのが恥ずかしいのだろうか。いや、そんなシャイなマッチョなどいない。もしかして僕に負けるのが怖いのであろうか。いや、そんな臆病なマッチョなどいない。


「え、ほんまになんでなん。説得するから電話番号ちょうだいや。」


「はい。でも喧嘩せんように説得してな。」


僕はマミちゃんからアメフト男の電話番号を貰うと家路に着いた。アメフト男の仕事が終わるのは八時。終わり次第電話をしてよいらしい。恥ずかしがり屋なのか臆病なのかは分からないが、アメフト男の背中を押す一言を考えながら夜の八時を待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る