Perfect Situation

 翌朝も同期としての一線を超えない会話をするに留まり、僕はマミちゃんの家を出た。何かもっと出来たのではないか。手を繋いでくれた際に口づけでもしておけばもっとましな敗北を、いや、あわよくば勝利を掴み取ることが出来たのではないか。帰り道weezerの『Perfect Situation』を聞きながら自責の念に駆られた。あとはマミちゃんによる敗北の宣告を待つのみである。少しでも気分を軽くしようとインターネットの恋愛お悩み相談記事を読み漁ったが、どれも女の髪の毛一本の価値も無い言葉ばかりで、僕の苛立ちは増すばかりであった。気を静める為、ガードレールに腰かけてコルツに火をつける。紙巻からは感じられない、葉巻特有の香ばしい煙が、フィルターについた甘いココアの味と共に僕の口腔に流れ込み、口一杯に旨みを広げ、そして出ていった。特別な時にしか吸わないコルツの煙が幾分か僕を落ち着けた。振られても仕方がないか。僕のような根暗にはこのような恋愛の結末が初めから用意されていたのである。根暗の恋愛の行く末は断じて『ウォールフラワー』などではなく『ペーパータウン』なのである。まだ自分の勘違いを相手に悟られなかった分僕の方が救える。僕は一歩引いた視座に立って自らの恋愛の結末を見守ることにした。

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