第四翔
昨日に引き続き、天気は快晴で絶好のドラゴンレーシング日和だった。
帝都キャメロットは、魔族と激しく戦い抜いてきた歴史を持つ神聖ランカスター帝国の首都だけあり、巨大で堅牢な城壁に取り囲まれた城塞都市である。
外周はおおよそ二〇ドラン、ドラゴンレーシングはこの城壁の外を回る形で行われる。
基本ゴール地点は決まっていて、スタート位置を変える事で距離を調整する。
帝都西門を出てすぐ傍に建設されている円形競技場(コロッセウム)が、そのゴール地点に当たる。
コロッセウムの中は郊外と言う僻地にありながらいつも通り人で溢れ返り、異様な熱気に包まれていた。
一角には一辺二〇メトーはあろう巨大な正方形の白い布が立て掛けられていて、そこには城壁の上にずらりと並ぶ無数の竜が映し出されている。
この光景はコロッセウム近辺のものではなく、東門近くのものだ。
白い布――スクリーンに使い魔が見た映像をそのまま映し出すという大魔術師マリーンが開発した魔法、映像転写(イメージ・トランスクリプト)である。
元は偵察用に開発された魔法だが、今はドラゴンレーシング観戦になくてはならない魔法となっていた。
コロッセウム最上部は竜のオーナーとその関係者だけが立ち入る事を許されるエグゼクティブエリアで、いくつかの個室が用意されている。
その一室にシャーロットはいた。深紅の天鵞絨(ビロード)張りの豪華絢爛な椅子に腰掛け、すぐ後ろにはリュネットを侍らせている。
右脇に置かれた小さなパープルウッド製の丸机には、オレンジを絞ったジュースが注がれていた。
その前には一辺一メトー程のスクリーンが二つ立て掛けられ、一つにはコロッセウムと同じ映像が、もう一つにはアロンダイトが映っていた。
一般観衆用の使い魔は全頭の姿を捉えるよう指示されているが、オーナー用の使い魔は、竜の背中から胴体にかけて被せられたゼッケンの番号を追うように仕込まれている。
好きな竜に焦点を合わせて見せてもらえるのは、オーナーだけが味わえるまさに特権だった。
「姫様、そろそろスタートのお時間です」
「うむ」
シャーロットはずずいっと前のめりになり、スクリーンに見入る。アロンダイトは落ち着いているようだった。
いつもは首を大きく振ってうるさくしているのに、堂々としたものである。
コロッセウムのスクリーンには、竜たちがスタート位置に縦一列に並んでいた。
最も内側がゼッケン一番で、外側が七番である。
アロンダイトは四番。ちょうど真ん中である。
『お客様、お待たせいたしました。キャメロットコロッセウム第二レース、いよいよ発翔となります』
音声拡大の魔法により、コロッセウム全体にアナウンスがかかる。深みのある壮年の男性の声だった。
キャメロットコロッセウムの名物実況者シダー=セント氏である。幼い頃からこのコロッセウムに通っているシャーロットには馴染み深い声でもある。この声を聞くと俄然、気分が高揚してくるのだ。
ドォォォォォン!
大砲の音が鳴り響くと同時に、竜たちが一斉にスタート位置から飛び出した。鼻を切ったのは――
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