第31話 相対
カラオケの翌日。
今日もこの憂鬱な時間がやって来た。
体育の授業———すなわち、ドッジボールの時間である。
「お前ら! 今日こそは絶対に早河に当てるぞ!」
「「「おう!」」」
気合い十分な男子達を遠目から眺める。
今日も今日とて、俺は狙い撃ちにされる運命にあるようだ。
彼らにとって試合に勝つことよりも俺に当てることの方が重要になっている気がするが、だがそれも今日で終わり。
この集中砲火地獄ともようやくおさらばできる。
次の授業からは種目が変更されると、先生からさっき報告があったのだ。
皆がいつも以上に息巻いているのは、今日が俺に当てるラストチャンスだからなのだろう。
「そういえば、女子は今日から種目が変更されたらしいよ」
日陰で一緒に休んでいる優斗がそんなことを教えてくれる。
「へぇ、そうなのか。藤宮が教えてくれたのか?」
「うん、そうだよ」
藤宮の名前が出たからか、優斗は笑顔になる。
ほんと、優斗は藤宮にゾッコンだな。
そして、相変わらず二人はラブラブのようだ。
彼女なんて出来る気配すら無い俺からしたら、やはり羨ましい限りである。
「女子は今日から卓球に変わったんだって」
「卓球ねぇ…………ん?」
卓球……?
あれ、それってもしかして…………いや、もう関係ないか。
一瞬、あのイベントが頭に浮かんだが、それはもう起こる事の無いイベントだ。
と言うのも、実はストーリーだと今日の体育の授業で、沙紀と玲奈の初相対イベントが起こっていた。
本来であれば、優斗と順調に仲を深めていた二人がお互いに対抗心と嫉妬心を持ったことがキッカケで発生するのだが、知っての通り優斗は藤宮と付き合っているので、このイベントが発生するキッカケがそもそも無いのだ。
しかし、ストーリーでバチバチしていた二人を知っている身としては、起こらなくて良かったと思っている。
何事も平和が一番だ。
「晴哉くん。次、僕達のチームの番だよ」
「分かった」
優斗にそう言われてコートに入ると、敵チームから絶対に当ててやるという強い意志の込められた視線を向けられる。
わざと当たろうかとも思ったけど、ここまで来たらどうせなら一度も当たらずに終わりたい。
「晴哉くん。頑張ろうね」
「そうだな」
そして、この時の俺は知らないのだった。
今現在、とあるイベントが絶賛発生中であることを。
告白するヒロインを間違えて以降、ストーリーに無い知らないイベントしか起きてないくせに、なぜか今回に限ってストーリー通りのイベントが起こってしまっていることを。
◇◇◇◇◇
【ヒロインside】
「それでは各自、二人一組のペアを作ってください」
先生がそう告げると、女子生徒達はとある二人の周りに集まる。
「雛森さん。よかったら私とペアを組まない?」
「篠原さん。私とペアを組んでくれませんか?」
生徒達の輪の中心にいたのは……聖女様こと雛森沙紀と、女神様こと篠原玲奈だった。
誰にでも優しく接する沙紀と、誰にでも凛とした対応をする玲奈は、男子だけではなく女子からの人気も非常に高い。
男子よりはアプローチは積極的ではないが、それでもこうして隙あらばお近づきになりたいと思っている生徒は多い。
二人が誰とペアを組むか、注目が集まる。
そんな中、二人はほぼ同時に口を開いた。
「ごめんなさい。私、ペアに誘いたい方がいますので」
「ごめんなさい。実は私、ペアを組みたい人がいるの」
彼女達からの誘いを断った二人は、まるで何かに引き寄せられるかのように近づき合い……
「ねぇ、雛森さん。もしよかったら、私とペアを組んでくれないかしら?」
「はい、是非よろしくお願いします。実は、私も篠原さんにペアをお願いしたいと思っていました」
「あら、それは奇遇ね」
「そうですね」
「「ふふっ……」」
二人は微笑み合う。
こうして、ストーリー通り沙紀と玲奈の初相対イベントが発生したのだった。
それも、ストーリーとまったく同じタイミングで。
ただ、違う点があるとすればこのキッカケとなったのが主人公ではなく、モブキャラであるということ。
そして、そのモブはと言うと……
「誰か早河に当てろ!」
「クソぉ! どうして当てられないんだ!」
「おい嘘だろ!? なんで背後からのボールを見ずに避けられるんだ!?」
「晴哉くん、スゴイ!」
絶賛無双中なのであった。
その無双劇の裏で何が繰り広げられているか当然知らずに。
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