第29話 モブは挟まれる

 中間試験も無事終わって、後はテスト返却を待つのみ。

 沙紀と玲奈のおかげで確かな手応えを感じているので不安は無い。


「晴哉、ちょっと良いかしら?」


 休み時間。

 飲み物を買って教室に戻って来ると、玲奈に話しかけられる。

 

「どうした? もしかして、俺の試験の出来を心配しているのか? なら心配無用だ。手応えバッチリだからな」

「元々心配なんてしてないわ。晴哉なら大丈夫って分かってたもの」

「お、おう」


 なんて嬉しい言葉を掛けてくれるんだ、この女神様は。


「晴哉。今日の放課後、クラスの皆でカラオケに行くって話は知ってる?」

「そういえばそんな話あったな」

「それで、晴哉は参加するのか知りたくて」

「いや、参加しないつもりだけど……」

「そう。分かったわ」


 玲奈は席を立ちクラスメートの男子に何やら話しかけると、その生徒はしょんぼりと肩を落とした。


「何を話したんだ?」

「参加しない旨を伝えたのよ」


 なるほど……玲奈が不参加となれば落ち込むのも無理はないか。


「晴哉君」

「どうした、沙紀?」


 次の授業の準備をしている途中、今度は沙紀に話しかけられる。


「あの……晴哉君は今日の放課後、クラスの皆とのカラオケに行きますか?」


 まさか玲奈と同じ事を沙紀にも聞かれるとは。

 二人は俺が参加するかしないかが、そんなに気になるのだろうか……

 

「いや、行かないよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 それから沙紀も先ほどの男子生徒に何やら話しかけると、彼は絶望したような表情を浮かべた。

 沙紀も玲奈と同じように参加しない事を伝えのだろう。

 二人が参加しないとなれば、絶望するもやはり無理はない。

 ……そういえば、優斗は参加するのかな。

 後で聞いてみるとしよう。


 そして、昼休み。

 昼食をとりながら優斗に参加するのかどうか尋ねると、予想外の答えが返って来た。


「参加する予定だけど、中止になるかもって話が出てるみたい」

「えっ、なんでまた急に」

「なんでも雛森さんと篠原さんの不参加が決まったかららしいよ」


 そういえば二人が参加しない旨を伝えた後から、クラスの雰囲気が暗かったな。

 二人の影響力の強さを改めて実感する。


「でも、こればっかりは仕方ないな」


 参加はあくまで任意。

 仮に中止なったとしても、二人に責任は無い。


「そうだね。まぁ、晴哉君が参加しないって聞いた時から、こうなるだろうとは思っていたけどね」

「ん? それはどう言う意味だ?」

「それはね、それだけ二人にとって晴哉君の影響が大きいって事だよ」

「……うーん、やっぱり分からん」

「晴哉君って意外と鈍感なんだね」

「えっ」


 お前にだけは言われたくないわ、この鈍感系ラブコメ主人公!

 それは優斗が言ってはいけないセリフNo. 1だ。


「もしかして優斗は、沙紀と玲奈が参加しない理由に心当たりがあるのか?」

「僕からは何とも言えないかな。二人に直接聞いてみたらどうかな?」

 

 優斗は何やら訳知りのようだが、教えてくれるつもりはないらしい。

 ここまで物体ぶられると流石に気になるので、優斗の言う通り二人に聞いてみることに。

 返信はすぐに来た。


沙紀 『晴哉君は参加しないみたいなので。折角行くのなら、晴哉君と一緒の時が良いですから』


玲奈 『晴哉が不参加だからよ。どうせ行くなら晴哉と一緒が良いもの。その方が楽しいわ』


 ……マジか。

 まさか二人にとって、俺の参加がこんなに重要だったとは。

 ……あれ、ということはもしこのまま中止になったら、それって俺のせい?

 本来誰にも責任は無いが……なんだか少し罪悪感を勝手に覚えてしまう。

 それに優斗も楽しみにしていたみたいだし……


「……」


 逡巡した後、俺は再び二人にメッセージを送信した。



◇◇◇◇◇



 ———放課後。


 俺はクラスの皆とカラオケに足を運んでいた。

 この場には優斗と藤宮……そして沙紀と玲奈もいる。

 受付を済ませると店員に大部屋へと案内される。

 

「それじゃあ皆、好きなところに座ってくれ」


 この場を取り仕切っている男子生徒がそう言ったので、お言葉に甘えて適当な所に座る。

 優斗は予想通り藤宮と隣同士で座っていた。


 そして、沙紀と玲奈は……


「雛森さん、俺の隣空いてますよ」

「いえ、俺の隣の方が良い場所ですよ」


「篠原さん、俺の隣に来ませんか?」

「お、俺の隣でも大丈夫ですよ」

 

 男子達から熱烈なお誘いを受けていた。

 さすがは本作のヒロインにして学園の二大美少女だ。


 二人がどこに座るのか注目が集まる。


「ご、ごめんなさい。私、座りたいところがあるので」

「ごめんなさいね。私、もうどこに座るか決めてるの」


 二人はこちらに近寄って来て……


「晴哉君。お隣いいですか?」

「晴哉。隣座るわね?」


「えっ、あ……どうぞ」

 

 反射的にそう答えてしまい、二人は俺の隣に腰を下ろした。

 まさかモブの俺がヒロイン二人に挟まれる展開が来るなんて……

 ……まぁでも、何も起こらないだろう。

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