第6話 新ヒロイン!?

 あの後パニック状態に陥ってしまったので記憶が曖昧だが、とりあえず俺は雛森と正式にペアになっていた。

 なってしまっていた。


「……」

「ん? どうした篠原?」


 篠原が何か言いたそうな顔で俺を見ている。

 何でだろう……なんかちょっと不機嫌そう。

 そう言えば、さっき雛森とペアが決まった時もこんな顔してたような……


「……何でもないわ」

「そ、そうか?」

 

 何でもないって顔じゃないんだが……


「それじゃあ、外に行く生徒は時間になったら教室へ戻って来くるように。後、くれぐれもサボらないように」

 

 授業の課題は、ペアの生徒がお互いの似顔絵を描き合って、完成した絵を提出するというもの。

 作業を行う場所は自由とのこと。

 殆どの生徒は屋外で課題に取り組むらしく、開始の合図とともに一斉に移動し始めた。


「早河君。よろしくお願いします」

「……こちらこそ」

「それで……せっかく天気も良いですし、私達も外に行きませんか?」


 反対する理由もないので頷き、俺達も教室を出て移動する。

 

「雛森。どこで作業するかは決めてるのか?」

「はい。実は良い場所を知っていますので。それと、先ほどは突然お誘いしてごめんなさい」

「謝らなくても大丈夫だ。でも、どうして俺を誘ったんだ?」

「その……私、早河君以外の男の子とお話しした事があまりないので……殆ど初対面の方とペアになるよりも、早河君とペアになった方が安心できると思いまして」

 

 雛森と関わろうとする男子は大勢いるが、先程のように彼らの勢いが激しすぎて雛森が萎縮してしまい、その結果会話がままならないのだ。


 それから雛森は少し恥じらいながら、それに……と続ける。


「…… 実は私、絵がとても下手なんです。でも、早河君は優しいので私の絵を馬鹿にしたり笑ったりしないと思いまして」

 

 雛森が絵が苦手なのは知っていたが…… いつの間に俺、雛森に優しい人って思われてたんだ…… ?


「でも、ごめんなさい。……私、とても無神経でした」


 告白の件を言っているのだろう。


「俺は気にしてない。むしろ変に気を遣われて気まずくなる方が嫌かな。難しいかもしれないけど、できれば普通に接してもらえるとありがたい」

「……はい。あ、着きました、ここです」


 着いた場所は、いくつかベンチが並べられた裏庭の奥にある小さな休憩スペース。

 雰囲気も落ち着いてて、確かに良い場所だ。


「あまり知られてない穴場スポットなんです。ここなら、静かに課題に取り組めます」


 それから俺達は早速課題に取り掛かる。

  

「……」

「……」


 お互いの顔を見ながら黙々と鉛筆を走らせる。


「……あ、あの、早河君」


 名前を呼ばれたので手を止めると、なぜか雛森の顔が赤く染まっていた。


「どうした?」

「その……あまり見つめないでください。は、恥ずかしい……です」

「え……」


 それだと描けないんだけど……

 と言うか、俺だって雛森に見つめられて内心めちゃくちゃ恥ずかしいけど頑張って意識しないようにしてたのに、そんな事言われたら……

 

「それだと描けないから無理だ。そ、それに見つめてるのはお互い様だろ」

「そ、そうですけど……うぅ」

「……」

「……」


 止めていた手を動かすが数秒程見つめ合った後、俺達は同時に顔を逸らした。

 や、ヤバい……意識してしまって集中できない。

 それから刻々と時間が過ぎていく。


「ひ、雛森。このままだと二人とも時間内に課題を提出できない。正直俺も恥ずかしいけど頑張って耐えるから、雛森も頼む」

「そ、そうですね。わ、分かりました」


 お互いに顔が赤いまま、再び止まっていた手を動かす。

 

「ここです」


 ふと、少し離れたところから声が聞こえた。

 どうやら、この場所を知っていた生徒が雛森の他にもいたらしい。

 

「良い場所だね。それと藤宮さん。ペアを誘ってくれてありがとう」


 あれ、この声どこかで……


「い、いえ。じ、実は私……前から・・・立花君とお話ししたいと思ってて……」

「えっ。そ、それって……」


 えっ……立花!?

 

 俺はすぐさま二人の方へ視線を移す。


 そこにいたのは紛れもなく、主人公———立花優斗と………見知らぬ女子生徒だった。

 女子生徒は遠目からでも分かるほど顔を真っ赤にして恥じらっている。

 その姿は、まるで恋する乙女のようで……


 う、嘘だろ……

 主人公がヒロイン以外の女子とフラグを立ててるだとぉぉぉ!!??


 そして、この時の俺は知らない。

 後日、更に驚愕の展開が訪れてしまう事を。

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