第2章 霊の遺した痕跡

箪笥から聞こえてくる音に耳を澄ませながら、大輔と拓真は不安と興奮の入り混じった気持ちでいた。しかし、彼らが目にしたのは、何もないただの暗闇だけだった。突然、冷たい風が部屋を通り抜け、二人はぞっとした。その瞬間、彼らの心には、この屋敷と、その中に潜む霊の物語を解き明かすという使命が芽生え始めていた。


「何か、この屋敷には秘密があるんだ。」拓真がつぶやいた。


翌日、二人は地元の図書館で屋敷の歴史について調べ始める。古い文献と新聞の切り抜きを漁るうちに、屋敷がかつて家老を務めた名家のものであったこと、そしてその家族にまつわる悲劇的な出来事があったことが明らかになる。特に、ある若い女性の悲しい運命が、二人の注意を引いた。彼女は祭りの日に不慮の事故で亡くなり、その死にまつわる奇妙な噂が後を絶たなかったのだ。


「これだよ…彼女が探しているのは…。」大輔がある文献を指さしながら言う。


文献によれば、亡くなった女性は、祭りで身につけるはずだった特別な簪を大切にしていた。しかし、彼女が亡くなった後、その簪は行方不明になっていた。


その夜、二人は再び屋敷を訪れ、霊が何を探しているのか確かめるため、箪笥の周囲を探し始める。彼らの探索は、屋敷の奥深くへと進んでいく。廃れた庭園、壁の裏の隠し部屋、そして忘れ去られた古い井戸。彼らが探索を進めるにつれて、屋敷は次第にその秘密を明かし始めた。


そして、彼らはついに、隠し部屋の壁にかけられていた古い肖像画を見つける。それは、亡くなった女性の絵だった。絵の中で女性は、簪を身につけていた。二人は、霊が探し続ける簪が、彼女にとってどれほど特別な意味を持っていたかを理解し始める。


肖像画の横にあった古い手紙には、女性が祭りの日に簪を身につけることを心待ちにしていたこと、そしてその簪が彼女の愛する人からの贈り物であったことが記されていた。手紙の最後には、「この簪を失うことは、私の命を失うことに等しい」という言葉が残されていた。


大輔と拓真は、女性の霊がなぜ休むことなく箪笥の周囲を彷徨い、何かを探し続けるのか、その理由を深く感じ取ることができた。彼女は、愛する人との絆、そして失われた命の象徴である簪を探しているのだ。


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