第1章 肝試しの夜

夏の終わりを告げる風が、村を静かに包んでいた。二人の若者、大輔と拓真は、地元で語り継がれる家老屋敷の伝説に挑む決意を固めていた。彼らにとって、これは単なる冒険以上のものだった。勇気の証明でもあり、彼らの絆を試す試練でもある。


「大丈夫か?怖じ気づいてない?」大輔が拓真に挑発的に言った。

「冗談じゃないよ。こんなの朝飯前さ」と拓真が返したが、心の中では不安が渦巻いていた。


家老屋敷への道は、見知らぬ恐怖と興奮に満ちていた。彼らは、夜が深まるにつれて屋敷に近づいていく。家老屋敷の噂は、二人の間でも度々話題に上がっていた。特に、桐箪笥から何かを探し続ける女性の霊の話は、彼らの好奇心を刺激した。


屋敷に到着すると、彼らはその壮大さと、同時に感じる圧倒的な寂寥感に息をのんだ。月明かりだけが、屋敷の古びた外観を照らし出している。門をくぐり、庭を横切ると、扉が軋む音だけが夜の静寂を破った。


「ここが、その家老屋敷か…。」大輔がつぶやく。


彼らは、屋敷内を探索し始めた。埃に覆われた家具、壁に掛けられた古い絵画、そしてどこからともなく聞こえる不気味な音…。すべてが、この場所が長い間人の手が入っていないことを物語っていた。


突然、二人の前に現れたのは、噂に聞いていた桐箪笥だった。それは、部屋の隅に静かに佇んでおり、その存在感だけで、二人を圧倒した。


「ここだよ…。あの霊が出るって言われてる箪笥…。」拓真が小声で言った。


大輔と拓真は、手に汗を握りながら箪笥に近づいた。しかし、その瞬間、何かが彼らの注意を引いた。箪笥の中から、かすかに聞こえる女性の声と、物を探すような物音…。


二人は、恐怖と好奇心の間で揺れ動く。彼らはこの夜、ただの肝試しが真実の探求へと変わることを知らずにいた。家老屋敷が秘める過去と、女性の霊が探し続けるものの謎が、ゆっくりとそのベールを脱ぎ始めるのだった。


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