豚の子育て

菅原 高知

豚の子育て

 一匹のブタが七匹の子ブタを生みました。


 みんな無事に生まれましたが、一匹だけカラダが小さい子ブタがいました。


 生まれたばかりの時、子ブタたちはあまり動きません。しかし、お母さんブタがある声で鳴いた時だけビックリするほど機敏に動きます。


 それはごはんの合図です。


 その声を聞くと、兄弟たちは寝ていても飛び起きて、一目散にお母さんブタのおっぱいに飛びつきます。


 ブタのおっぱいはずっと出るわけではありません。おっぱいをあげる少しの間しか出ないのです。そして、その時間はお母さんにしかわかりません。だから、子ブタ達は一生懸命走り寄るのです。


 カラダの小さい子ブタも一生懸命走ります。


 けれど、兄弟たちの様に早くは走れません。いつも最後に余ったおっぱいに吸い付きます。


 けれど、お母さんブタのおっぱいの出る量は同じではありませんでした。

 たくさん出るおっぱいはカラダの大きな兄弟たちが吸っています。


 カラダの小さいな子ブタはいつもお乳があまり出ないおっぱいに頑張って吸い付いていました。


 しかし、いくら頑張って吸ってもお乳が出る量は少ないままです。 


 兄弟たちが飲み終わった後も、おっぱいの場所を変えずに吸い続けます。


 一度その場所と決めてしまうと子ブタは決まったおっぱいでしかお乳を飲まないのです。


 カラダの小さい子ブタは、ソレが変なことだとは思いません。兄弟たちも同じです。


 大きくて力のある子ブタはお乳がたくさん出るおっぱいを。小さいてか弱い子ブタはお乳があまり出ないおっぱいを吸うのです。


 弱肉強食です。


 

 ある日、ブタの住んでいる所にお父さんと子供がやって来ました。

 ブタは牧場の豚だったのです。


「あー、またアメリカがアフリカいじめてる」


 子供が怒ったように言いました。


「何だい、アメリカとアフリカって?」


 不思議そうにお父さんが聞きました。


「子ブタの名前だよ。大きいのからアメリカ、中国、日本、イギリス、ロシア、インドで、一番小さいのがアフリカ」


 子供が自慢げに指を指しながら教えます。


「ははは。面白い名前を付けたね」


 それを聞いてお父さんが笑いました。


「面白くないよ」


 しかし、子供は不満そうです。


「だって、コレは世界なの」


「ん? どういう事だい?」


 お父さんが聞きました。


「あのね学校で教えてもらったの。世界中には食べ物がなくて困っている人がたくさんいるんだって。だけど、世界中の食べ物をちゃんと分けたらみんながちゃんと食べられるだけのごはんはあるの」


 子供は一生懸命話します。


「たけど、ちゃんと分けてないの。だから、たくさん食べられる人と、あんまり食べられない人がいるの。それってブタも同じでしょ? この子はカラダが小さいから本当は他の子よりたくさん食べないといけないのに、お乳の少ないおっぱいしか吸わないのよ」


 お乳のたくさん出るおっぱいの前に連れて行って上げても、元の場所に戻っちゃうのと悲しそうに言いました。


「みんながおかしいって気が付いていないから、それが変に思えないんだって。だから、私はちゃんと変だって思えるように、忘れないように子ブタたちに国の名前を付けたの」


 子供はまた自慢気に言いました。


「そうか、そうだね」


 お父さんが子供の頭を優しく撫でました。


 くすぐったそうに子供が笑いました。


「じゃあ、コレからはピーマンも残さずに食べようね。苦手だから食べないなんて言ったら、ごはんがあまり食べられない人たちに怒られちゃうよ」


「そうだね! ちゃんと食べるわ」


 子供は元気よく答えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

豚の子育て 菅原 高知 @inging20230930

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ