第3話 夢子さんには全然出会えない

それにしても 夢子さんには全然出会えない。これはもうダメってことだな。次に付き合うとしたら夢子さんだったのに…。全然会えないから仕方がないか。

それにしたって60を過ぎてから そう簡単に出会えるんだろうか 。ちょっと難しそうな気がする。さすがにナンパはもう無理だし。同僚の中から探す と言っても適当な相手が今はいない。それにもうさすがに 年だし、ナンパはそろそろ引退したいと思っている。だから一番いいのは夢子さんに出会うことなんだけどなぁ〜。

夢子さんにはぜんぜん出会えない。あえそうなところには行ってみたのに全然ダメだ。夢子さんの噂も聞こえて来やしない。

初めて会った時からすごくいい感じだった。趣味も合いそうだし、 全然 飾り気のない 夢子さんがいいなぁと思っていた。使い込んで襟のあたりがよれかかってるようなトレーナーの上に制服 だろうか作業着みたいな服を着ていて、まるっきり可愛らしさとか綺麗さとは無縁だった。着るものにまるで無頓着な感じが返って新鮮だった。可愛らしい人なのに化粧や着るものには全く無関心な感じが良かった。細くて一見 華奢に見えるのに体を使う仕事をしているせいか意外に肩幅があって、丈夫そうな感じだった。以前同じ大学の出身の女の子でアーチェリー部の首相をしていた娘とちょっと付き合ったことがあったけれど、その子に似てるなと思った。あの子も夢子さんみたいに女性としては肩幅が広かった。スポーティーでかっこいいんだけどもう少し 女らしく華奢な感じの方がいいかな。

大学時代は自転車同好会にいたという夢子さんが自転車に乗ってるところを見たことはないけれども 似合うだろうなと思った。自転車っていうのはかなり 腕の力も使うので夢子さんも肩幅が広くなったのかなぁ。夢子さんとは付き合ったことがないので よくわからないけれど仕事のやり方 なんか見ていると真面目なんだろうなと思った。販売や値段の交渉 なんて慣れない仕事にも頑張って 手を抜かないんだろう。たった半日 家に来てもらっただけだったけど そんなところまでわかる気がした。

直美もテニスは好きだったみたいだったけど そんなに熱心にやってる感じではなかった。僕と同じで友達と遊ぶためのリクレーションとしてやってるという感じだった。そのせいなのかな直美は肩幅も狭く 華奢な感じだった。足は太くはないんだが腰幅は結構あった。いわゆる 日本人的な体型だった。肩幅の広い 夢子さんとはちょうど逆の感じだ。2人とも とびきり可愛いのに面白いものだと思った。男が頭で考えるのと、実際の彼女たちに会って思うのとは 微妙に違っているのかもしれない。

夢子さんにはまだ触れたこともないのだが、筋肉質で思っているより硬いのかもしれない。直美の形のいい唇が柔らかそうに見えて、意外に硬いのと似ているのかもしれない。女の体は柔らかいようでいて 特に若い女は驚くほどしっかりしていて硬いと思ってしまうぐらいだ。女の体の全てが 乳房や太ももの内側のように柔らかではないのだ。直美の体で最も柔らかな部分に触れた時のことは今でもよく覚えている。女の太ももの内側はあんなにも柔らかいということを知らなかった。ふれた部分から先が直美の中に溶けて含まれてゆくようだった。どこまでも柔らかな直美の中に果てしなく落ちてゆくようだった。あんなに柔らかなものは他に知らなかった。

あの後直美から何の連絡もなかった。きっと離婚を諦めたんだろう。僕は ある意味 ほっとした。2人の子供のためにも それがベストの選択だと思った。

直美は何度も 今の夫とは会わないと言っていたが 直美がそう言えば言うほど僕には嘘っぽく聞こえた。直美は本心では離婚する気がないんだろうと 僕にはそう思えた。連絡がないまま3年も経ってしまったが おそらく直美は離婚はしていないだろうと思う。2人の子供 特に下の子供が二十歳ぐらいになれば またその時本気で離婚を考える時が来るかもしれないが、まあ、それは しばらくあとの話しだ。

若い頃はイケイケでテレビのキャスターのようなこともしていたあきちゃんから連絡があった。久しぶりだったが相変わらず いい女だった。 2回離婚して今の旦那は3人目 のはずだが4人目ってことはないよな。もういい加減 落ち着いたんだろ。でも あきちゃんはいい女で、モテるだろうしまだ落ち着いてはいないのかもしれない。お父さんの法事で久しぶりに会った僕を誘ってくれるぐらいだからまだ現役なのかな。年代が若くなればなるほど女性たちはより積極的になってきているような気がする。男たちも 昔のように 落ち着いた感じはない。このまま行くと日本の将来が不安になるがまあそんなことはないのかな。きちんとした人はきちんといるんだろう。誰も彼もが僕の周りにいる人たちのようにうわついているわけではないだろう。



直美から連絡があった。

藤が丘の駅で会うことにした。

「遅いよー。もうその気なくなちゃった。」

「離婚は止めたんだよなぁ。」

「うん。」

「そうかー、それがいいと思うよ。子供たちにとっては今のお父さんが本当のお父さんなんだから一緒に暮らすべきだよ。」

「その気なかったでしょう。」

「そりゃそうだろう。いきなり離婚するから結婚してくれって言われても困るでしょう。」

「ふう~ん。」

「結婚するわけじゃないのね。」

「まあね。」

「だから何も言ってこなかったんだ。」

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