大工になりたい夫の話

デパートまでは20分

第1話 日本語でしゃべってくれ

ある日曜日夫とテレビを見ていた。

昨今の葬儀事情を特集するバラエティ番組。

音楽を流したり、写真にこだわって生前に自分の葬儀を契約し、息子娘に迷惑をかけないようにやっていると胸を張っている高齢者を特集していた。


ひつぎの種類も様々で値段もピンキリ。

会場の種類も、呼ぶ人の人数も、埋葬の方法も。

私は海に散骨したり、樹木葬とはいかがなものか。

海に散骨の予約してた場合、船をキャンセルできないから時化でも出航するというのを見て「親族迷惑じゃん」と心の中で毒を吐いていた。


一方、夫は真剣にテレビを見たあと、いつになく真剣な顔で私につぶやいた


「俺が死んだら、、、普通のおひつでいいからね。」


「え?」


「いや、俺が死んでも特別なことしなくていいから、普通のお櫃に入れてくれたらいいから」


「は?」


「え?」

「は??」



「ねぇ、もしかして棺のこと言ってる?」

「俺今なんて言った?」

「おひつ」

「おひつ??」

「おひつって言った」


「おひつって何?」

「は?ww」


「死んだ人が入る箱・・・」

ここで自分が言い間違いをしているだろうということに気づいて照れだす夫。


「ひつぎね!」


「おひつってなに?」


「旅館でご飯入れてくれる丸いやつ!」


「あー(照」


彼がなくなった際には特注のお櫃を発注してその中に納めてあげなくちゃいけなくなった。最後のお願い、叶えてあげる。


あれから5年経ったがまだ「ごめん間違えたわ。普通の棺でいい」って言いなおされていない。

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