ヒロインが消えた日。

あんぬ

第1話 プロローグ


 その日、この物語のヒロインであるはずの   が消えた。

学園に通っていた痕跡もこの世に生を受けたという痕跡も。

たしかに彼女は忌み嫌われていた。貴族ばかりが通うこの学園で異質な存在であった。

貴族であっても平民であっても平等に学べる場所が必要である、平民と貴族が同じ生活圏で暮らすことはないがお互いのことをよく知ることは今後の我が国にきっとよい影響を与えるであろうと試験的にこの学園に入学を許された数少ない平民の一人であった彼女。

学力や知識、武力など秀でたものは何一つとして持ち合わせてはいなかったが、ただ一つそれはそれは可憐で愛嬌があった。

貴族令嬢でさえ時間とお金をかけ美しくなる努力をしていたが、平民でありながらも貴族令嬢に負けずとも劣らない可憐さがあった。

 だから彼女は気が付いたのだ。

“私はヒロインなのかもしれない”

“前世の漫画やゲームでは転生したらヒロインってよくあるしきっと私も”

“私がヒロインだもの。原作はわからなくてもきっと大丈夫”

“私のための世界に違いない”

本当にヒロインで、この物語を、この世界をよく理解していたならばきっと彼女は消えることなどなかったのであろう。

彼女が物語の通りに動いていればきっとあんな目には遭わずに済んだのだろう。

だけどヒロインは消えた。彼女はこの世界ではただの背景モブだったのだろう。

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