内見は北川さんと一緒に。

あしわらん

第1話

 私、南川雪穂は憂鬱だった。短大卒業後、埼玉東京エリアで展開する不動産会社に勤めて三年。過去二年間、私の業績は支店最下位。というか全店舗最下位。よくこれまでクビならずにやって来れたと思う。正直、この仕事向いてない。


 埼玉の田舎を極めたこの支店では、月初めに前月の成績が発表される。契約成立件数が棒グラフで示され、左から成績のいい順に並ベられる。本店に比べればミジンコ並みの件数だが、右へ行くほど棒が短くなり、ラストの棒は格段に低い。それが決まって私なのだ。


 これにはれっきとした訳がある。

 でもその理由は誰にも言えない。


 周りで突然拍手が沸き起こり、はっとした。


 後輩の女性社員が遠慮がちに前に進み出て、支店長の隣で皆の注目を浴びている。支店長は信楽焼に似た頬をほころばせて、賞賛の言葉をかけ女性社員の肩をぽんぽんと叩く。周りで半円形を描いて集う社員が拍手していた。私もその中に混じって遅れて拍手する。続いて二位、三位とややボリュームを落とした拍手が続き、最後はいつも同じ文句で締めくくられる。


「最下位は今月も南川さんでした」


 拍手はない。


 私は俯いて頭を下げ申し訳なさを示す。


「あ、そうそう。今日から四月だからね、うちにも新人が入ることになっている。本社でミーティングしてから、それぞれの配属先に送られるから、こっちに着くのは十時頃になるだろう。あとでみんなにも紹介するから、虐めたりしないように」


 支店長の合図で朝礼は解散した。


 自分の席に戻り、ため息を吐く。

 私だってここに来る前は人並みに契約を取れていた。

 心の中でふてくされて落ち込んだ。


 こんなことなら、あのまま本店にいればよかった。

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