答辞
執行 太樹
温かい陽の光が降り注ぎ、桜の蕾も膨らみ始め、春の陽気に包まれた今日、私たちは卒業の日を迎えました。本日、お忙しい中、私たちのためにご臨席くださいました皆さま、誠にありがとうございます。
今日、私はこの卒業式という場で、答辞を読ませていただきます。私事ではございますが、この場をお借りして、お話しをさせてください。
私がこの高校に入学したのは、今から4年前です。思えばこの4年間、私にとって色々ありました。
私がこの学校に入学し、少しずつ学校生活に慣れ始めた5月の初め頃、ふとしたことがきっかけで友人関係がこじれてしまい、それが原因で学校に行かなくなりました。
入学早々に学校に行けなくなった私は、毎日罪悪感に囚われていました。学校に行くことが出来ない私、周りのみんながしていることが出来ない私、そんな私のことを家族はどう思っているのか。その事を考えていると、家族に対して申し訳なく思い、学校に行けない自分を責めました。
前向きであること、明るいこと、楽しいことが良しとされているこの社会の中で、私はそのようにはなれませんでした。家族のみんな、あの時は心配かけて、ごめんなさい。
学校に行けなかったあの頃を振り返って私は、印象に残っている場面があります。
それは、ある日、私がリビングでくつろいでいた時のことです。母が不意に声をかけてきました。
「将来、何かしたいことはあるの」
私は、したいことは何もありませんでした。母には、何も、と応えました。母は、そっか、とだけ言いました。
少しの間、沈黙がありました。そして、母は私に言いました。
「私は、あなたのこと、誇りに思っているからね」
私は、少し驚きました。急にどうしたのかと思いました。母の顔を見ると、母はまっすぐ私を見つめていました。母の目は優しく、声は力強く聞こえました。私は、頭の中で母の言葉の意味を整理していました。そんな私を見て、母は続けて言いました。
「周りのことなんか、気にしなくて良い。家族に遠慮も、しなくて良い。あなたの人生なんだから、あなたのしたいようにすればいいの。自分らしく生きなさい」
その日から、私は母の言葉について考えていました。
自分らしく・・・。この言葉は、初めは私にはよくわかりませんでした。私にとっての自分らしさとは、何なのだろう。母の言葉は、日に日に私の心に響いていきました。
私は、どんな人なのだろうか。元々おとなしく、いつも1人でいるのが好きだった私。中学時代、友達に明るく振る舞っていた私。高校で友達関係がこじれ、友達と関わることが嫌になった私。そして、学校に行かなくなった私。一体、どれが私なのだろう。そんなことを考えていると、ふと思ったのです。どれが私なのか、なのではなく、どれも私なのだ、と。
自分らしくとは、自分のしたいことをするということ。あるがままとは、自分に嘘をつかないということ。
自分らしく、あるがままに生きていく、このことの大切さが少しわかったような気がしました。そしてそれが、自分の人生を生きるということなのだと私は思います。
私は、学校を休んでいる間に、お菓子作りの魅力に惹かれました。美味しいお菓子を作りたい、そのお菓子を多くの人に食べてもらいたい。そして、食べた人が幸せになってもらいたい。私のしたいことは、これなんだと思いました。それからは、また高校に通いました。お菓子の専門学校に進学するため、自分の夢を叶えるため、必死で勉強しました。そして、今日があります。卒業後は、専門学校で美味しいお菓子の作り方を勉強するつもりです。お菓子作りって、とても奥が深いんです。
私が今日ここにいるのは、私だけの力ではありません。私が今ここに立っているのは、私を支えてくれた人たちの存在があります。
私には、私の人生を応援してくれる人が沢山います。その人たちのお陰で、今私はこうして生きています。決して、自分ひとりだけの力ではありません。そして、これからも多くの人たちに助けてもらうでしょう。これからも、よろしくお願いします。
私は、私自身の足で、私にしか歩くことの出来ないこの道を、一歩ずつ歩んでいこうと決めました。他の誰でもない、私だけの人生を・・・。
その先にどんな景色が見えるのか。その景色を家族と、友達と、私と関わってくれた全ての人たちと見に行きたいと思います。
自分らしく生きなさい。
あのときの母の言葉は、今でも私の心の中に響いています。お母さん、聞いてくれていますか。
私は、私です。楽しいときも嬉しいときも、もちろん落ち込んでいるときも、悲しいときも、紛れもなく私なのです。
私は、これからも私として生きていきます。皆さんも、どうか皆さんらしく、生きてください。
本日は、本当にありがとうございました。
答辞 執行 太樹 @shigyo-taiki
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