お題消化短編集

火炎焔

何気ない窓辺

 お題

 ・コレクション

 ・非日常

 ・生体認証

 ・逆恨み

 ・前払い

 ・一点突破

 ・ネコひねり問題

 ・風邪

 ・暗殺

 ・バブみ


 ――


 どうも最近、風邪が長引いてしまったようで、最近の自分の生活というものが非日常に感じて仕方がなかった。

 ようやく病み上がりに仕事をしようにも、木漏れ日が差し込む窓の隙間から、凄腕の暗殺者が狙ってるような気がして身が入らない。

 休憩中にコーヒーを飲みながら、オフィスで窓を見ていると、そんなことばかり考えてしまう。


 そうだ、自分がもし暗殺されるとしたのならば、どのような理由になるのだろうか。

 全く身に覚えがない事であったとしても、お前が悪いの一点突破で逆恨みしてくる人間というものはいるものだ。

 だが、気前よく前払いしてまで、この私を恨んでいる人間がいるだなんて思いたくもない。


 まるでネコひねり問題だ。全くもって理屈を解明することが出来ない。

 まだ、私がその人の大事なコレクションを壊していた、くらいの正当性は欲しいものだ。

 人生に余裕が足りていないのではないだろうか? 

 その者に今必要なのは私への怒りなどというものではなく、癒し――すなわちバブみを得ることであろう。


 と、そんなことをつらつらと考えていたところで、窓から差し込んでくるのはもう、淡く暗いライトだけになってしまった。

 そろそろ退社の時間だ。帰る準備を始めよう。


 部屋を出るドアの前に置かれている、生体認証装置に向かって目を見開く。

 けたたましい機械音が鳴り響き、まぶしい光線が網膜もうまくをゆっくりと通過していく。

 まるでデジタルな画像を細かいジグソーパズルのように切り分け、一つ一つ汚れがないか確認してから、ピースをはめていくような繊細せんさいさだ。


 細長い形をした、回路がびっしりと詰まった穴に、人差し指を差し込んでいく。

 指先にむずがゆいような感覚が伝わり、正常の光が見えた。


 入ってくるときは何もないのに、帰りのこの徹底っぷりは何なのかとここの会社を問いただしたくなる。

 仕事の途中で、こんなところの文書を奪ってくる人間などいない。

 私は至って普通の仕事しかしていない。何者かが私になりかわったところで、何も利点はないだろう。


 最後に声紋認証だ。

 この部屋のホコリの舞う音ですら広いそうな、高精度なマイクに向かって、私はシンプルな一音を発する。

 ……不快な音と異常な光が、機械から発せられた。

 ちゃんと風邪を治しておけば良かった。

 これのせいでまた長らくは檻の中だ。

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