14頁 高校生になる

 夕方(シゲルの部屋)。

机の上に、開いたアルバムが置いてある。

開いたアルバムの写真は『入学式の記念写真』である。

雛壇に、男ばかりの新入生(男子校)が並ぶ。

最上段には父兄。

左端に和服姿の『道子』が控えめに写っている。


 自宅の玄関先で、憲司が制服のシゲルを写真に撮っている。

憲司はしみじみとシゲルを見て、


 「大きく成ったなあ。あッ、道子! オマエも入れ」

 「私はいい・・・」

 「え? なぜ」


道子は作り笑いで、


 「父さんが入りなさいよ。私が撮ってやる」


道子は憲司の持つカメラを奪い、ピントを合わせる。

カメラのシャッターを切る道子。


 「よし。じゃ、次はオマエとだ」


道子は明るく、


 「私はいいの。あッ、お鍋が焦げちゃう」


カメラを憲司に渡し、急いで家に入って行く道子。

後姿が淋しそう。


 警察署内

警察署刑事課で、憲司が書類を荷造りしている。

ドアーのノック音。


 「はい!」


弘子がドアーをそっと開け、部屋に入って来る。


 「失礼します」

 「な~んだ。ヒロちゃんか」


弘子は驚いた表情で、


 「石原さん移動ですって」

 「そうなんだ。ここも長いしね」

 「でも栄転じゃないですか。それに昇進まで。おめでとう御座います」


弘子は制服のポケットから『厚めの封筒』を取り出し憲司の傍に来る。

憲司は驚いて、


 「ええ! ヒロちゃん。ヒロちゃんから餞別は貰えないよ」

 「そうじゃないの。これはシゲルちゃんの進学祝い」


弘子は憲司の机の上に封筒を置く。


 「いらないよ。アンタからこれは貰えない!」


憲司は封筒を突き返す。


 「いいえ。これは収めて下さい。私、あの時からシゲルの為にと思って少しづつ貯金して置いたの。少ないけど入学金の足しにして下さい」


憲司は封筒を見詰める。

弘子は淋しそうに、


 「・・・もう誰にもシゲルの事、聞けなくなっちゃうわね」


憲司は俯いて溜息をつく。


 「ミッちゃんの云う事、ちゃんと聞いてますか?」

 「聞いてるよ。良い子だ。心配しなくて良い。あ、道子が月に一度病院に通ってるんだ。署に寄らせるよ」

 「え! ミッちゃん、どうかしたんですか?」

 「アイツには持病が有ってね」

 「ジビョウ?」

 「子供の頃から腎臓が悪いんだ。医者は子供を産む事をあまり勧めなかった」


弘子は驚く。


 「え! ・・・」

 「でも、今はシゲルが心の支えだ」


弘子は涙ぐみ、


 「有難う御座います。そこまで可愛がって頂いて」

                          つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る