クロノスワールド

当時東寺

プロローグ

 彼にはこの景色に見覚えがあった。その記憶の在処が一体いつ、どこなのか彼は知らなかった。


 愛する国が混沌に包まれる様。右を向けば無辜の民の命が次々と踏み潰され、左を向けば異国の人間が鼻高々に我が国の地で仲間に向けて見栄を張っていた。

 笑い声に悲鳴、家屋が焼ける音、鉄の剣が肉を裂く音、逃げる人々の荒い足音。


 しかし彼は混沌の左にも右にも属さなかった。

 彼が辿り着く先には愛する兄がいた。宮殿の地下、彼の知らない一室。

 自然の生い茂ったその一室の真ん中には石の祠があった。

 兄はその中で眠る小動物を力強く手に掴んでいた。


 その一室でシャサ・アドゥクエルは兄に剣を向けた。

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