第27話 功績か反逆か


 レグナスとグレイグがレイバーン砦に戻ると、リーアムが首を長くして待っていた。


「レグナス様! いかがでしたか? 敵の軍は?」

リーアムが即座に問う。


「うん。に会ってきた――」

と、第一声でレグナスが答える。


「『金獅子きんじし』? おい、グレイグ! いったいどういうことだ!?」

と、今度はグレイグへすごい剣幕で食ってかかる。


兄者あにじゃ、どうもこうもないさ。レグナス様の言う通り、敵将レーネ・ソープと会ったんだよ」

「レーネ・ソープだと? それで? 無事だということは、倒したか?」

「いや、帰ってった」

「なんだと!? お前、敵将を前にしてまんまと逃がしたとはどういうことだ!?」


 リーアムは待ちぼうけをさせられたことが余程悔しかったか、従弟いとこのグレイグに怒りをぶつけているように思える。


「リーアム! グレイグのせいじゃない。僕がそうしろと命じたんだ。それに、こんなところで言い合ってる場合じゃないんだ。すぐにデルミタージュへ戻って、守りを固めるぞ」

「え? デルミタージュで、ですか? ケントルはどうするんです?」

「ケントルはそもそもしっかり守れば簡単には陥落しない城塞都市だ。ギリアムに任せておけばしばらくはもつ。だけど、デルミタージュはそうはいかない。戻って敵を迎え撃たなければ、領土を失うことになる――」


 リーアムはレグナスの言っていることがいまいち理解できていないようで、小首をかしげている。一体どこが攻めてくるというのか? われわれ「レインマンス王国軍」の勝利ではないか――。


「申し訳ありません、レグナス様。お言葉ですが、『敵』はのでは――? デルミタージュが攻められるとは、どういう――」


 この問いに答えたのはグレイグだった。


「兄者、レグナス様は、、レインマンス王国側じゃないんだってよ? つか、むしろ、レインマンスからすればうまくやられたと思うかもしれないってことらしい」

「はあ――」


 このリーアムとグレイグの二人。武力はかなりのものを持っているのだが、こと戦略や戦術、戦況というあたりではまだまだ勉強が足りていないという他ない。


「とにかく、いそぐよ! このまま真っすぐデルミタージュへ戻る」


 レグナスは今は少しでも時間が惜しいと思っている。彼らの教育も大事だが、それよりも領民の生命の方が大事だ。


 レグナスは有無を言わせず、再び馬にまたがり砦を駆けだして南へ向けて走り出した――。



――――――



 レインマンス王国国王領レインガード王都レインフォール。

 王城謁見の間。


「敵軍ケントリアース王国連合軍は進軍をやめ、反転して退却を始めております!」


 と、伝令が知らせてきた。


 国王カール・レインは目を見開いて、 


「退却だと!? それで、ガタルヘナ公国はどうなったのだ?」


と、伝令に尋ねる。


「ガタルヘナ公国は損害無し! ケントリアース王国連合軍はガタルヘナの国境に到達する前に引き返した模様です!」

と、伝令は返し、広間を辞した。


「――いったい何が起きたというのだ? こちらの連合軍はまだ参集出来ておらぬはず――、こちらの威容に尻込みしたというわけではあるまい……」


 カール・レインは状況が理解できず、小首をかしげる。

 と、そこに新たな伝令が駆け込んできた。


「伝令です! ケントリアース王国領ケントリアース王都ケントルが陥落、国王ルード・ケンタウラはにした模様! これを為したのはデルミタージュ公国軍であると思われます!」


 カール・レインは立ち上がって、満面の笑みを浮かべた。

 なんという「功績」か。おかげで九死に一生を得たと言える。未だこちらの連合軍はガタルヘナに集結していない。この状況で攻め込まれれば、ガタルヘナは落ち、このレインガードまではもう目と鼻の先だ。

 参集が追い付かなければ、このレインガードも落とされる、つまりは、自分の命は風前の灯火だったのである。


「でかした! でかしたぞ! デルミタージュよ!」

と、思わず声を張り上げた。

 

 しかし、これに水を差す者がいた。

 執政のジュード・ランカスターだ。


「陛下! 喜んでいる場合ではありませぬ! これはデルミタージュの反逆です! 彼のものは陛下の王命に背き、ガタルヘナへ参集せず、私的に軍を動かし、自身の利益の為のみを考えて手薄になったケントルを攻め落としたのですぞ? これは厳罰をもって臨まねば、他の連合国諸国にしめしがつきませぬ」


 この言葉に、カール・レインは我に返り、玉座に腰を下した。

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