第12話 対決!ボルカソルカ


 北アイゼン地方――混沌の迷宮。

 その奥深くにそいつは存在していた。


 魔王ボルカソルカ――。見た目は巨大な牛頭大男だ。この世界ではこの種をミノタウラスというらしい。

 

 今さら言うまでもないが、この世界には様々な「種」が生息している。もちろん人間が一番多い。が、それ以外にもエルフ族、ドワーフ族、ホビット族等の亜人種族。馬人族ケンタウラス牛頭人族ミノタウラス蛇足人族ラーミアなどの魔人族。他にも狂乱動物、魔獣、魔物、幽鬼などの魔物族などもいる。


 ちなみに、現在の同行者エルセーヌ・キーラインはエルフと人間の混血らしい。

 

 話を現在に戻す。


 魔王ボルカソルカ。彼はかつてはミノタウラス族の勇者だったらしい。それが、この『混沌の迷宮』で彷徨さまよううちに魔気まきてられ、『魔王』となってしまった。この世界の冒険者には往々にあることなのだという。迷宮の魔力に引き込まれ正常な判断を失い、完全に闇に染まってしまった者を『魔王』という。そう言った『魔王』は迷宮の魔物どもを統率し、侵入してくる冒険者を殺戮する迷宮の主になるのだ。


『ふん! 『魔王』を冠せられるなんて片腹痛いわ。私から言わせれば偽物の『魔王』だわ!』


とは、ゼクスの言葉だ。久しぶりに姿を現した時に、彼女はそう言って憤慨した。どうやら「この依頼票」を引き剥がしたのは、ただ単純にそれが許せなかっただけということらしい。

 ただそれだけの理由でレグナスは、2カ月も掛けてこの場所までくるはめになっているのだ。


「レグナス! さっさと終わらせちゃいましょ!」

エルセーヌがひらりと腰から二本の短剣を抜き放つ。


「ああ、そうだね。もういい加減、柔らかいベッドとか風景の良い場所に立つ家とかほしいよ――」

と、レグナスも腰の剣を抜いた。この剣にもかなり世話になっている。あの迷宮の宝箱から掘り当てたものだったが、意外や意外、相当の性能を秘めている宝剣だった。


――ぶもおおおおおお!!


 ミノタウラス族が皆このような怒声を発するわけではない。

 通常は、ちゃんと話もできるし、酒も飲む。歌も歌えば、字も書く。


 しかし、『魔王』になってしまい、迷宮の主に落ちてしまった者にはもう言葉は通じないのだ。


 ボルカソルカが両手で抱える大斧をぶんぶんと振り回して近づいてくる。

 その風圧は凄まじく、迷宮の床に積もった土が舞い上がり、土煙を形成する。


――ぶもおおおおおお!!


 ふたたび、咆哮が響き、迷宮最奥のボス部屋の壁を揺らした。


 ぶん! と一閃、大斧がレグナスの左側から襲ってくる。

 速い――!


 大斧は瞬くうちにレグナスの間横に迫ってきた。


「レグナス!?」

 さすがにエルセーヌが動かないレグナスに疑問を持って叫んだ。


――ぎぃいいいいいいいん――!!


 大斧と何かがぶつかる音が部屋中に響く。


「エルセーヌ! 今だ!!」

叫んだのはレグナスだった。


 レグナスの『左腕』の手甲に紫色の効果光エフェクトライトが光っている。そして、その『左腕』の数センチ手前で大斧の刃が止まっていた。


「やああ!」

軽快なエルセーヌの声が響く。エルセーヌは跳躍し、ボルカソルカの頭上から急降下した。


 ざくぅ! と、エルセーヌが両手に握る短剣がボルカソルカの刺さる。


――ぶもおおおおおお!!?


 最初の2回とは少し違ったニュアンスを含む咆哮が部屋中に響く。


「よくやった、エルセーヌ。あとは任せろ――!」


 レグナスは右腕の宝剣レギオン――レグナスが勝手に名付けた――をいっぱいいっぱいに引き絞り、真一文字に横薙ぎした。


 がっががっががっががが――、と何度か骨を絶つ手ごたえがレグナスの右腕に走るが、剣の刃は止まることなく振り切られ、最後には『左腕』の盾のところまで到達し、そして、そこで刃が砕け散った。


 しかし、一方、ボルカソルカの体は上下二つに分断され、その場に転がり落ちただの肉塊へと変わり果てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る